明石商(兵庫)のエース吉高壮投手(3年)が自己最速を更新する146キロをマークした。2回戦の東邦戦(愛知)でも、過去の記録を1キロ更新する145キロを計時。中1日、今大会3戦合計435球を投げ抜きながら、粘り強い投球が光った。知名度を全国に広げた吉高はユニークな方法で冬の練習を乗り切り、春への力を蓄えていた。

 「待ってろ ディズニーランド」

 昨秋の公式戦終了後、練習用の帽子のつばに記したフレーズだ。冬休み期間中は午前か午後の半日を使い、全員で行う下半身強化メニューがあった。約2時間をかけて行う階段や坂道ダッシュ…。「何か目標を決めないと頑張れない」と考え、同学年の仲間と2人で記したのがディズニーランド訪問を待ち望む言葉だった。2年生は今年1月11日から、3泊4日で修学旅行が予定されていた。3日目がディズニーシー、最終日にディズニーランド。トイ・ストーリー好きの吉高にとって、至福の時間が待っていたのだ。

 修学旅行当日は野球部の仲間とグループを作り、ファストパス(少ない待ち時間で楽しめるチケット)を駆使。乗り物9つを楽しむ徹底ぶりで「ディズニーランドでも走りましたよ」と園内を駆けめぐった。約2週間後にはセンバツ出場が決定。「やっぱり野球をしているからには甲子園ですよね。一般人で夢の場所ならディズニーかもしれませんが」と聖地のマウンドが明確な目標になり、さらに精進を重ねた。

 東邦戦前には狭間善徳監督(51)が「(吉高が得意な)スプリットを捨ててくるかもしれないけれど、そのために冬の間、スプリットでストライクを取る練習をしてきた」。走り込みやウエートトレーニングが球速やスタミナのアップにつながり、投げ込みでは制球力も身につけた。今大会では全国の強力打線を、磨き上げたスプリットで翻弄(ほんろう)。だが、最後は悔しさだけが残った。

 龍谷大平安に延長12回サヨナラ負け。最後は甘く入ったスプリットを、左中間に運ばれた。「2ストライクを取って有利だったのに、甘い球を投げてしまった。自分が悔しい。まだまだ詰めが足りなかった」。夢の舞台での経験が、さらなる鍛錬の意欲をかき立てた。「兵庫のチームを圧倒できるピッチャーになって、夏、ここに戻ってきたいです」。敗戦の瞬間、吉高の目標が夏の甲子園初出場に切り替わった。