高校野球編の第3週は「監督列伝 私学編」。つくば秀英(茨城)の森田健文監督(30)が、好投手を育てて聖地を目指す。全国どころか関東大会にも出場経験のないチームから、最近10年で4投手がプロ入り。うち3人が高卒で、今年も最速149キロの右腕エース長井良太投手(3年)がドラフト候補に挙がる。自校グラウンドで実戦練習ができない厳しい環境でも、プロの世界に選手を送り込む育成法があった。

 つくば秀英のブルペンには、美しいフォームで投げ込む選手が並んでいた。ベンチに入らない下級生も、大物感漂う投げっぷりを見せる。コーチ時代を含めて指導歴10年目の森田監督は「入学時から、とにかく体の使い方を話します。主に肩甲骨と股関節ですね」。

 全国的には無名の私立校ながら、ソフトバンク山田、オリックス塚原、巨人江柄子、昨年ソフトバンク育成1位の野沢と4人のプロ選手を輩出した。今年もエース長井に加え、OBの白鴎大・中塚駿太(4年)は最速157キロ右腕としてドラフト候補に挙がる。

 「好投手育成所」にかかれば、球速20キロアップは当たり前だ。現エースの長井は、中学時代は捕手だった。入学時の最速は126キロ。最初に教える基本フォームを体に染みこませ、現在は149キロにまで伸びた。

 森田監督 右投手の場合、まず左の肩甲骨をはがすように内側に入れる。そして体が開かないように、投げる瞬間に右の肩甲骨にぶつけるイメージです。軸を細く、鋭く回転させれば自然と腕は振れるんです。

 だから、投手に過度なウエートトレーニングはさせない。「速い球を投げるのに筋肉が必要なら、ボディービルダーが一番速いだろ? という話をします」。教材には西武岸やソフトバンク千賀ら、細身でも速球を投げる選手の動画を使う。体力強化は、主に自前の“調教施設”でのランニングだ。砂を敷き詰めた約200メートルのトラックと、高低差約1・5メートルの坂路で負荷をかける。学校からグラウンドまでの約6キロを自転車で約30分走る移動でも、下半身が鍛えられている。

 好投手を擁しながら結果が出ない理由は、実戦経験不足にある。ネットで囲まれたグラウンドは25メートル×35メートルほどで、内野ノックができるギリギリの大きさだ。隣に30メートル×100メートルの長方形のグラウンドもあるが、全体での実戦練習や満足な打撃はできない。

 今春は地区大会初戦で古河一に1-10で大敗した。「試合で必ずエラーが出るんです…。生きた打球を捕る練習ができないし、内外野が別々に練習するから連係ミスも出る。野手のレベルも上げたい」。全国トップクラスの好投手を育ててきた若き指揮官の挑戦は続く。【鹿野雄太】

 ◆森田健文(もりた・たけふみ)1985年(昭60)8月12日、茨城・つくば市生まれ。つくば秀英では捕手、三塁手を務め、2年秋から主将。最高成績は県8強。武蔵大では内野手兼捕手として活躍。卒業後につくば秀英のコーチに就任。13年秋から部長、14年春から監督。家族は夫人と1男1女。