高校通算51本塁打、プロが注目する藤枝明誠の伊藤翼咲(3年)が、亡き母と約束した甲子園出場を目指している。昨秋の東海大会以降、強打に注目が集まったが、春には調子を落とした。だが、光岡孝監督(38)から一喝され、目を覚ました。その時、頭によみがえったのが母と兄に誓ったあの約束…。「最後の夏」は、それを果たすべく全力を注ぐ。

 6月11日、大台50本に到達した。清水西との練習試合で内角の直球をセンター方向にはじき返した。別の日にもう1本。不振を脱し、本来の打撃が戻っていた。「甲子園に行けるのは高校生の時だけ。今は何よりも甲子園に行くことしか考えていません」。邪念を捨て、迷いのない澄んだ目をしていた。

 強打に加え、投げては140キロ超。その注目度は昨秋に県3位で進出した東海大会を境に、さらに高まった。既に8球団が視察。春季大会前には練習試合もチェックされていた。「(プロのスカウトを)意識したつもりはないですが…」と言うが、無意識に自分を見失っていた。秋季大会の4割5分以上あった打率が、春は2割台。4月3日、中部地区大会準々決勝で静清に4-10で敗れると、光岡監督に一喝された。「お前がプロに行くために野球やってるんじゃない。みんなで甲子園に行くために一緒にやっているんだ」。

 目が覚めた。同時に中3の冬、大腸がんで亡くした母若奈さんのことを思った。「ショックのあまり当時のことを覚えていない」というが、当時浜松商3年の兄大地(20=三菱自動車岡崎)が夏の大会で敗退した後、「俺が甲子園に連れて行ってやるよ」と約束していた。天国にいる母に、甲子園でプレーしている姿を見せることが、今やるべきことだと気付かされた。「春は無意識のうちにプロも頭にありましたが、今は目標は1つに絞られてスッキリしています。このチームで甲子園に行きます」。

 1回戦の誠恵に勝てば、2回戦で3連覇を目指すシードの静岡と対する。伊藤は自分のバットでこの難関を突破し、母と兄と交わした約束を果たす決意だ。【大野祥一】

 ◆伊藤翼咲(いとう・つばさ)1999年(平11)3月3日、吉田町生まれ。小2から住吉町野球SSで野球を始める。中学は小笠浜岡シニア。家族は父、兄。189センチ、86キロ。血液型O。右投げ左打ち。