「高校BIG3」の一角、花咲徳栄(埼玉)高橋昂也投手(3年)が苦しみながら初戦突破した。大曲工(秋田)戦で先発。4回にソロ本塁打を浴びるなど10安打を許し、県大会を通じて今夏41イニング目で初失点を喫したが、11三振を奪って1失点で完投した。埼玉勢は夏の甲子園60勝目。

 148球の熱投を終えた花咲徳栄・高橋昂は、表情ひとつ変えなかった。4回に今夏の連続無失点が途切れたが「気にせず、最少失点でいこうと思った」。10安打されても、要所でギアを上げた。「久々の公式戦で制球にバラつきはあったけど、チームが勝ててよかった」と繰り返した。

 粘りに粘った。序盤から直球を狙い打ちされ、岩井隆監督(46)は「ずっと相手がバットを振った場所に投げていた」と首をひねった。ベンチでは「またやったな」(監督)「すみません」(高橋昂)のやりとりが繰り返された。直球の最速は日本ハムのスピードガンで149キロを計測。「スピードもキレも悪くなかった。だんだん修正できた」。9回も球場表示で145キロと球威は落ちなかった。

 追い込んだ後は低めの変化球で封じた。「苦しい場面では力を入れて、狙って三振も取れた。納得いく投球ができた」。今春センバツ初戦の秀岳館(熊本)戦で制球を乱し、自分を見失った左腕の姿はなかった。

 春の屈辱が、心を変えた。今夏の埼玉大会。マウンドから「行くぞ」と大きな声で味方に指示するようになった。その野手の好守でしのいだ場面もあった。岡崎主将は「初めて見た」。母広美さんが「すごいプレーが出たじゃない!」と褒めると、高橋昂は「やっぱり声をかけたほうがいいんだね」とこたえた。

 「高校BIG3」の最後に登場した最速152キロ左腕は言った。「いい投手が多いけど、周りも三振の数も気にしない。チームの勝ちに貢献するだけ」。静かなるエースは、1球1球に魂を込める。【鹿野雄太】