最速152キロ右腕が、この夏最高のサクセスストーリーを完結させた。作新学院(栃木)が北海(南北海道)を7-1で破り、史上初めて春夏連覇を達成した62年以来、54年ぶり2度目の優勝を果たした。エース今井達也投手(3年)が7安打1失点完投。2回に1点を先行されたが、4回に山本拳輝内野手(3年)の2点二塁打など打者一巡の猛攻で5点を挙げて逆転した。5試合41イニング616球を快投した右腕が、参加3874校の頂点に立った。

 今井がマウンドで両手を突き上げ、跳び上がった。今大会4試合で完投し、616球を投げ抜いて優勝。普段はクールな右腕は「背番号1として9回まで粘り強く投げきれた。最後は感極まった」。アルプス席で泣きじゃくる仲間を見て、涙をこらえきれなかった。

 今大会初めて先制されても、剛速球で流れを呼び込んだ。3回2死、佐藤大をこの日最速152キロの直球で空振り三振。「3アウト目を三振で取ればチームに勢いがつく」。直後の4回、自らの適時打などで逆転した。準々決勝と準決勝でも、エースが直球で三振を取った後に得点が入った。

 「成長率で勝負しよう」。チームの目標を体現したのが、今井だった。昨夏は栃木大会で登板も甲子園でメンバーを外れる屈辱を味わった。最速144キロでも、制球難がつきまとった。秋は県4強で、春も8強。「関東大会にも出られなかったのに、甲子園優勝なんて奇跡と思うくらい信じられない」。今井自身が、成長に驚きを隠せなかった。

 “日本一の練習”は、うそをつかなかった。昨冬、ソフトバンク工藤監督が取り入れた「タイヤトレーニング」で鍛えた。大型トラックのタイヤを全身の力で投げ、引いた。今春は紅白戦登板の前も100球以上を投げ、連投できる体力をつくった。今井は「甲子園で実力以上のものを出せた」。最後の夏、聖地で150キロ台を連発。母江利子さんが「小4の時にソフトボール投げで出した記録が、まだ破られていない」と話す潜在能力が大舞台で開花し、日本一の投手になった。

 校歌を歌い終えた後、今井は1人で北海ベンチに一礼した。「決勝でベストゲームができた北海さんへの感謝です」。遅くまで練習に付き合ってくれた仲間には「ありがとな」と、そっとジュースを差し出す優しい男だ。4月に他界した祖父敏夫さん(享年79)には、甲子園の土を持ち帰った。「自分だけでは成し遂げられなかった。(卒業後は)できるだけ上のレベルでやりたい」。今井が努力と感謝で夢をかなえ、夏の主役になった。【鹿野雄太】

 ◆決勝で152キロ 作新学院・今井が152キロを出した。スピードガンが普及した80年以降、夏の決勝で150キロ以上を出したのは05年田中将大(駒大苫小牧=150キロ)、12年藤浪晋太郎(大阪桐蔭=153キロ)に次いで3人目。

 ◆作新学院の前回V 史上初の春夏連覇を達成した。春優勝のエース八木沢荘六(元ロッテ)が開会式当日に赤痢と診断され入院。あと1人でも保菌者がいれば出場辞退の危機だったが、八木沢以外は全員陰性で出場決定。代役エースの加藤斌(元中日=65年に交通事故死)が奮闘し、準決勝で中京商、決勝で久留米商を連続完封した。

 ◆春夏連覇校のV 甲子園で春夏連覇した7校のうち、連覇の後にも優勝したのは作新学院で4校目。

 ◆関東勢が連覇 作新学院が昨年の東海大相模(神奈川)に続きV。夏の大会で関東勢の連覇は98年横浜、99年桐生第一以来。

 ◆最長ブランク優勝 作新学院の54年ぶり優勝は、最長ブランク。過去最長は昨年の東海大相模(45年ぶり)。