日本一暑い町に激アツなニュースが届いた。多治見(岐阜)が21世紀枠で選出され、春夏通じて初の甲子園。出場は微妙と予想されていただけに、学校関係者も驚きの声を上げた。文武両道を掲げる公立校。さまざまなハンディをはねのけ、昨秋の県大会を制覇した成績が評価された。

 部員が集められた会議室。土本泰校長がテンション高めに朗報を告げた。さあ喜び爆発…と思いきや、全員の動きが固まった。「喜んでいいんか分からん」。誰かがつぶやくと、みんなが無言でうなずいた。

 昨秋の岐阜県大会で初優勝。東海大会は初戦敗退。大きな期待はしていなかった。佐藤昂気主将(2年)は「本当に驚いた。スマホで速報を見たかったけど、見ちゃったら会議室の前に生活指導室に行かないといけなくなる」と笑った。この屈託なさが夢切符を引き寄せたかもしれない。

 高木裕一監督(54)は「普通に9分の3の確率かと。県優勝がうちと中村さんだけなのでそこを評価してもらったのでは」と感激。隣の土岐市出身。教諭ではなく、多治見市役所に勤める異色の監督だ。業後に駆けつけても指導は数十分。それでも「本当に素直。スポンジのように吸収する」と地元から集まり、勉学も熱心な選手に目を細める。

 使えるグラウンドは40メートル四方ほどで内野部分だけ。サッカー部、陸上部への危険を考え、平日に硬式球でフリー打撃はできない。ティー打撃はテニスボール。同監督によると、手がしびれないから内角も恐れず、打撃の形が崩れなくなる。37人の部員は納得の上でコツコツと取り組む。

 技術練習ができない分、体力強化は徹底。「ゴボウ」と呼ばれた選手たちも一冬で軒並み10キロ近く増量した。最速131キロのサイド右腕、河地京太(2年)も一回り大きくなった。昨秋の県大会で3完投勝ちしたエースが軸になる。

 準決勝の益田清風戦は9回に5点を奪って大逆転サヨナラ勝ち。決勝の麗沢瑞浪戦は10得点13安打で、ほとんどが逆方向への打球。全員がチーム打撃を実践できた。パワーがついた打撃陣の底上げも期待できる。

 「自分たちの野球をやること。できないことはできないので」。多治見では野球人口の減少が深刻化していると話す指揮官。自らの音頭で毎年、市内の小学生に野球教室を開いている。かつて廃部も検討されていたところ監督に招かれ、知恵を絞りながら19年かけて地力をつけてきた。日本一暑い多治見の町を、甲子園から熱くする。【柏原誠】

 ◆多治見 1923年(大12)多治見町立高等女学校として創立の県立校。野球部は46年創部。春夏通じて甲子園初出場。不利な環境を早朝練習などで補い、昨秋岐阜大会で初優勝。東海大会は初戦で至学館に1対2で敗北。主なOBは元阪急の梶本靖郎(兄隆夫は元阪急エース)。多治見市坂上町9の141。部員数37人、マネジャー3人。

 ◆多治見(たじみ)市 岐阜県の南端、愛知県との県境に位置する。面積約91平方キロ、人口約11万2700人。美濃焼などの陶磁器工業が盛んで、国内トップクラスの生産量。猛暑日が多く「日本一暑い町」ともいわれる。07年には全国歴代2位タイの気温40・9度を記録。古川雅典市長。

 ◆21世紀枠 01年導入。推薦校は原則、秋季都道府県大会のベスト16以上(加盟129校以上はベスト32以上)から選出。練習環境のハンディ克服、地域への貢献など野球の実力以外の要素も選考条件に加える。07年まで2校、08年から3校を選出(記念大会の13年は4校)。東、西日本から1校ずつ、残り1校は地域を限定せずに選ぶ。