第89回選抜高校野球(19日開幕、甲子園)の組み合わせ抽選会が10日、大阪市内で行われた。選手10人で21世紀枠に選出された不来方(こずかた、岩手)の小比類巻圭汰主将(3年)は大会5日目(23日)の第3試合を引き当て、静岡との対戦が決まった。同日第2試合では早実(東京)の怪物・清宮幸太郎(3年)が登場するため満員札止めが確実。その後に控える不来方も満員の聖地でプレーすることになりそうだ。5万人近くの大観衆を味方につけ、初出場で初戦突破を狙う。(学年は新学年)

 舞台は整った。早実の試合直後のカードを引き当てた小比類巻は、思わず武者震いした。脳裏には満員の甲子園でプレーしている自分の姿が再生されていた。「燃えますね。打席やマウンドに立っている時が一番、観客に見てもらえる。自分をアピールしたい」。対戦相手の静岡については「どことやっても自分たちより強いのは分かっている。全力でやるだけ」と意気込んだ。

 大観衆を味方につけて、昨秋の東海王者を撃破する。小比類巻は持論を展開した。「味方が増えるのはいいこと。応援は力になる。自分たちのプレーで味方を増やして、戦いやすくできれば」。そのために、普段の野球を甲子園でも貫き通す。失策が出ても、ピンチになっても、勝負どころではいつも声を出して笑顔で乗り切ってきた。「楽しく野球をやっているのを見てもらうのが一番。野球を好きでやっているので。そこは大事にしたい」と言葉に力を込めた。

 甲子園を味方にする秘策もある。小比類巻は不敵に笑った。「自分の(学校)応援はタオル回しをリクエストしている。みんなに見える所で振ってほしい」。昨夏の甲子園2回戦の東邦(愛知)-八戸学院光星(青森)戦では、9回に発生した観客のタオル回しから球場のムードが一変し、逆転サヨナラ劇が生まれた。盤外戦術も巧みに使って、初戦突破の活路を見いだす。

 選手10人でセンバツに出場する意味を、小比類巻は重く受け止めていた。「自分たちが20人だったらインパクトに欠けていた。10人だからここにいる」。続けて「10人でもちゃんとやれているのを見てほしい。自分たちは部員が少ないところの代表として選ばれた。そういう高校に刺激を与えたい」と毅然(きぜん)と言い放った。観衆の心どころか、勝利ごとわしづかみにする。【高橋洋平】

 ◆東邦対八戸学院光星戦VTR(16年8月14日、甲子園2回戦) 東邦の逆転サヨナラ勝ちが「甲子園の魔物」の存在をクローズアップさせた。その直後に屈指の好カード「横浜対履正社」が控えていたため、この日は第1試合から満員札止め。東邦の爆音ブラスバンドのリズムに合わせて、自然発生した約4万人の手拍子とタオル回しが、魔物を呼び起こした一因となった。球場内の急変したムードにのみこまれた光星のエース桜井が試合後「全部が敵に見えた」と証言。応援が勝敗に直結することを示唆した試合だった。