あいさつ代わりに、甲子園名物の「浜風」に打ち勝った。第89回選抜高校野球大会に出場する早実(東京)の清宮幸太郎内野手(3年)が16日、甲子園練習に臨み、シート打撃で右中間最深部に飛び込む推定125メートル弾を放った。1年夏のU18ワールドカップ(W杯)決勝の米国戦以来の聖地で、パワーアップを実感した。早実は、大会第5日第2試合で馬淵監督率いる明徳義塾(高知)と対戦する。

 破壊されるような音とともに、打球は高々と上がった。打った清宮だけでなく、現場に居合わせた全ての人が放物線の行方を目で追った。甲子園名物の浜風に押し戻されることなく、打球は右中間の最深部に落ちた。推定飛距離は125メートル。「おぉ~」という歓声を聞きながら、清宮は自身の進化を感じた。

 清宮 ちょっとビックリしましたけど…。上がりすぎちゃったけど、思ったより伸びた。でも、まだまだ全然大したことないので。

 高校通算79本塁打をマークする男が、甲子園練習での1発で一喜一憂はしない。だが、手に残った感触、目で追い続けた放物線に大きな変化を感じた。1年夏に出場した夏の甲子園。右翼ポール際と右中間に本塁打を放ったが、中堅寄りの深い位置は初めて。約1年半の進化の証しだった。

 この冬は先頭に立ち、ウエートトレ、体幹トレで筋力をアップさせた。夏に97キロだった体重は101キロに増えた。8日の早大戦でも、130メートルの場外弾を放ったように、飛距離アップに直結した。

 初戦で対戦する明徳義塾は策士として名高い馬淵史郎監督(61)が指揮を執る。清宮が生まれる前の92年夏の星稜(石川)戦では松井秀喜を5打席連続敬遠した。今回も早実戦に対するコメントを口にしているが、清宮は「いろんな作戦があるかもしれませんが、自分たちがブレてしまえば術中にはまる。何があっても、動じずに自分たちの野球をする」と、松井流の不動心を強調した。

 1年夏以来の甲子園に気分も最高潮だった。「いいグラウンドだなと。他の球場とは違う雰囲気、オーラを感じた」。少しの感慨はあったが、試合に入れば清宮の心はただ1つ。「勝つこと以外はここに来た意味はない。勝つことを全員で意識する」。主将として主砲として、勝利のみを目指す。【久保賢吾】