春も「盛付(もりふ)劇場」だ。4年ぶり4度目出場の盛岡大付(岩手)が、延長10回逆転サヨナラ勝ちで初戦を突破した。10回表に1点を勝ち越されたその裏、無死二、三塁から2番林一樹外野手(3年)が中前に2点打を運び、高岡商(富山)を10-9と退けた。2度同点にする粘り、2桁15安打の打ち勝つ野球は、16強入りした昨夏をほうふつさせた。春夏通じて初の8強入りをかけ、25日の2回戦は春連覇を狙う智弁学園(奈良)と対戦する。

 劣勢に立たされても、盛岡大付の役者たちは慌てない。延長10回裏に先頭で四球を選んだ9番松田夏生(3年)は「負けるとは思っていなかった」。敵失で二、三塁として林が逆転サヨナラ打。この回わずか8球で「盛付劇場」を完結させた。03年夏の1回戦、12年夏の1回戦と、甲子園で過去2度敗れた延長戦を初めて制した。

 関口清治監督(39)がうなった。「よくつないでくれた」。1、2、4、5回の得点はすべて2死から取った。4安打の4番比嘉賢伸主将(3年)は「やってきたことに自信があり、追いついて追い越せる自信があった」と胸を張った。伝統の長靴を履き、竹バットを使っての雪上バッティング。筋力トレーニングも並行した。ひと冬越え、だれもがパワーをつけたと実感した。打てる、の意識が勝負強さにもつながった。

 昨夏の甲子園は、3試合すべてに2桁安打を放って計28得点。強打を全国に知らしめた。ただ完成した夏と違い、春はまだ成長途上。関口監督は「去年の3年生に比べれば半分以下」と現時点での打撃力には半信半疑で「今年は投手に自信があった」と明かした。それがふたを開けてみれば、投手が崩れてシーソーゲームに打ち勝った。1つ上の代と同じ試合展開だった。

 打撃陣が関口監督の評価を翻し、同監督は「先輩がやってきたことを僕らも引き継ぐんだ、と勝手に生徒に染み込んでいる。投手が安定してほしいんですが」と苦笑いしながら話した。殊勲の林は「自分たちは打撃のチーム」と強調。比嘉主将は「3点差ぐらいなら全然大丈夫。ベンチでも面白くなってきたって、思ってもないことを言ったり」と笑った。劣勢をはね返す強い心を持つ役者がそろっているからこそ、「盛付劇場」は甲子園を沸かせる。

 東北勢の先陣を飾り仙台育英(宮城)、不来方(こずかた、岩手)に勝利のバトンを渡して、1回戦の幕を下ろした。初の8強入りに昨春の覇者・智弁学園が立ちはだかるが「打ち勝ちたい」と比嘉主将は言った。再びハラハラ、ドキドキの劇場なのか。春の第2幕は25日に“開演”する。【久野朗】