熊本の復興に向け、勇気を届けるアーチをかけた。早実(東京)の清宮幸太郎内野手(3年)が、八代戦(熊本)で高校通算93号となる先制の3ランを放った。昨年も訪れる予定だったが、震災の影響で中止。2年越しで訪れた熊本の地で、右中間への推定135メートルの場外弾を放ち、地元の球児、ファンを感激させた。

 これが、清宮のホームランが持つパワーだった。招待試合2試合目の八代戦の1回無死一、二塁。右中間に描かれた放物線に、子供も、球児も、大人も魅了された。「おぉー」と響き渡った大歓声とともに、打球は場外に消えた。推定135メートルの高校通算93号には過去に数回、旅行で訪れたことのある熊本への特別な思いが込められた。

 清宮 子供の時に、阿蘇山や熊本城にも来ていて。去年も(招待試合で)来るはずでしたが、地震があって…。1年たって、できると思っていなかったので、こういう場を設けてくれたことに感謝しています。

 あの時の記憶は、鮮明に残っている。かつて、家族で訪れた思い出の地が大きな被害を受けた事実に心を痛めた。「熊本城も崩れていましたし、いろんな学校の校舎も…。行ったことのある場所が大変なことになっていて…。何とも言えないんですが…。衝撃的でした」。普段はハキハキと答える清宮が言葉に詰まりながら、心境を語った。

 試合前、和泉監督から「(熊本での試合は)2年越しだよ。あきらめない、野球をやろうな」と声を掛けられた。3500人もが詰め掛けた観客が待つのは何か。主将就任後は「勝利のために打点を稼ぐ」と言い続けた清宮が、この日は違った。「1本出せたのが、自分の中でもホッとした」。ひと息ついたのは、自らにかけた重圧から解き放たれた証しだった。