早実(東京)の清宮幸太郎内野手(3年)の存在感の大きさが、イレギュラーな作戦を選択させた。早実が4点ビハインドの9回2死走者なし。秀岳館・鍛治舎巧監督(66)はプロ注目左腕・田浦を清宮と対戦させる目的で、2番雪山を敬遠。夏の甲子園を見据えた作戦だったが、清宮は複雑な表情で打席に立ち、一ゴロに終わった。高校通算93本塁打の超高校級スラッガーゆえの現象で、新たな逸話を残した。

 次打者席に清宮が向かう直前、一塁側の秀岳館ベンチから先発した川端がマウンドへ伝令に走った。バッテリーに「清宮と勝負」と鍛治舎監督からの指示を伝えた。1球目、捕手の橋口は立った状態でボールを捕球した。スタンドから拍手が起こる中、清宮は少し複雑な表情を浮かべながら、打席に目を向けた。2番雪山はボールを4球見送って、一塁に走った。

 7000人の観客の異様な盛り上がりを背に、清宮は心を落ち着けるようにゆっくりと打席に向かった。左打席に入る直前、捕手・橋口の前を通った。「ベンチの指示?」と確認し、いつものルーティンでバットを構えた。マウンドにはプロ注目の最速144キロ左腕の田浦。カウント1-2からの137キロ直球を一ゴロに終わって、試合は1-5で敗れた。

 試合後は、「いろいろ感じることはありますが…」とだけ話した。和泉監督も「まぁ、その話はいいんじゃないですか」と多くを語らなかった。清宮に1打席多く回って、スタンドの観客は沸いた一方で、真剣勝負の観点から見れば、後味の悪さが残った。

 作戦を指示した鍛治舎監督は時折、苦々しい表情を浮かべながら、理由を説明した。「(夏の)甲子園で当たるかもしれない相手。川端は対戦したけど、田浦も勝負させたいなと。熊本の方も(清宮を)生で見るのは初めて。批判されるかもしれませんが、パフォーマンスではないです」と夏の大会も見据えた作戦だと話した。田浦は「怒っているのかなと感じたけど、気にせずに投げようと思った」と話した。

 不思議な経験とともに、清宮は「仮想・桜井」の攻略にも成功した。3回2死、プロ注目の最速148キロ左腕・川端の141キロ直球を右前にはじき返した。昨秋の都大会決勝で5打席連続三振を喫した日大三・桜井と同じ本格派左腕からの一打に「桜井も同じか、これ以上。こういう投手と対戦できたのは良かった」と手応えを示した。

 震災の影響で2年越しに訪れた熊本の地は、「清宮フィーバー」が巻き起こった。「たくさん温かい声をいただき、感謝しています」。感謝の思いとともに、数々の思い出が刻まれた熊本を離れた。【久保賢吾】