創立10年目の大船渡東が、強豪・花巻東を6-4で下し、初の東北大会出場を決めた。2-4で迎えた6回表に6安打で4点を奪い逆転に成功すると、2番手の佐藤飛勇(3年)が、5回を投げ強力打線を散発2安打で無失点に抑え、番狂わせを演出した。

 スコアボードに0を並べるたび、派手な雄たけびを上げながらベンチに走った。5回からマウンドを任された佐藤飛が、自らの名前のごとく勇ましく飛び跳ねた。「緊迫した場面が続いていたので自然と叫んでいた」。9回裏2死一、二塁、相手エース佐藤真生(3年)が三塁で封殺されるのを見届けると、まるで優勝投手のように両手を突き上げ歓喜した。

 5回を投げ、奪った三振はわずかに1個。アンダースローから繰り出す120キロ台の直球に変化球を織りまぜ、打者のタイミングを狂わせた。外野に飛んだ打球はわずかに4。強振する打者から凡打の山を築いた。就任2カ月の真下徹監督(54)は「思ったより直球が速かった。変化球との緩急がついて彼の球は打ちづらい。吸収力もあるし東北大会でひとつ上のレベルを体感して伸びてくれれば」と期待を寄せた。

 大船渡工と大船渡農が統合されて誕生し、創部10年目となる。チームを東北大会に導いた救世主は「しっかりと腕を振り切って投げることができた。強豪を倒すことでひとつクリアできた。大会では強気に内角を攻めていきたい」と意気込んだ。11年の東日本大震災で実家の洋菓子店が津波で流された。卒業後はパティシエとなり、父親が営む家業を継ぐと決めている。「シュークリームがうちの目玉商品です」。甘いスイーツに囲まれる男が繰り出すボールに、甘いのはひとつもなかった。【下田雄一】