北北海道大会は滝川西が3-1で旭川大高を下し、準優勝した昨年に続いて決勝に進出した。2-0の4回先頭の5番佐野大夢左翼手(3年)が、中越えにソロ本塁打。1回戦、準々決勝と無安打だった主砲が、キツネにグラブを“盗難”されてから陥っていたスランプを豪快な1発で拭い去った。

 「憑(つ)きもの」を振り払うかのように、佐野はダイヤモンドを全力で駆けた。4回無死。「初回に1本(安打が)出て、だいぶ楽な状態だったけど、入るとは思わなかった」。外角直球を強振した打球は、バックスクリーンの芝生で弾んだ。チーム方針の「いつでも全力疾走」で戻ってきた5番に笑顔が戻った。初回2点を先制後、2、3回と3者凡退だった嫌な雰囲気を、ムードメーカーの1発で振り払った。

 地区予選の直前練習中、悲劇は起こった。ベンチに置いていたグラブを、キツネに“盗難”された。チームメートとともに、夜までライト片手に捜索するも見つからず。堀田主将は「声をかけられないほどショックを受けていた」と話す。グラブは翌日発見されたが、ぼろぼろ。緊急事態に後輩のグラブを借りたが、悲劇は繰り返される。「1回目はベンチの端に置いていたので、中央に変えたんですが…」。数日後、また盗まれた。佐野は「よっぽどキツネ好みの何かが出ていたんですかね」と不思議がる。

 2度の“盗難事件”と時を同じくしてスランプに陥った。今大会は雨天ノーゲームを含めれば、準々決勝までの3試合8打数無安打。サヨナラ勝ちした旭川実戦では7回に代打を送られた。「うれしいのに、僕だけ大泣きしてしまった」。準決勝前日には、小野寺大樹監督(41)も「本人には言えないですけど、キツネに憑(つ)かれたのかなと…。佐野は努力する人間。打ってほしい」と心配していたほどだ。

 キツネショックは、努力で払拭(ふっしょく)した。打てなくても「変わらず元気を出して声を出す、全力疾走する」。大会中毎日200球の打ち込みを行った。この日も朝6時に学校でスイングを確認。大一番を前に、謎のスランプから脱出した佐野は「監督やチームメートからよかったな、と。ようやく貢献できてうれしい。明日も1戦必勝でがんばりたい」。呪縛から解放されて「化けた」5番が、チームを98年以来19年ぶりの甲子園へと導く。【浅水友輝】