<君の夏は。>

 一瞬、何が起こったのか分からなかった。1点ビハインドの4回。先頭打者の打球が春日部共栄・大木喬也投手(2年)の左膝下を直撃した。「打球が当たって、意識がなくなっていった」。力が抜けるのと同時に、仲間たちがマウンドに駆け寄って支えてくれた。

 左足を引きずり、両脇を抱えられてベンチに引き揚げた。ベンチ裏でアイシングし5分ほどが経過した後、決心した。「いけます」。本多利治監督(59)に言った。歩くと足がズキズキしたがそんな自分を球場の拍手が包んでくれた。大木は左のサイドスロー。投球動作に入ると軸足が痛んだが、9回1死まで4安打で踏ん張った。

 実は、本多監督の「秘蔵っ子」だった。試合後、指揮官は「大木をここで当てるために育ててきたんです」と明かした。今大会も救援で貢献していたが公式戦は初先発。大木は「夏の先発はないと言われていましたが、浦和学院は左打者が多い。自分なりに調整はしていました」。準決勝当日の朝、先発を言い渡された。やっと巡ってきた大チャンスだった。サヨナラ負けに涙が止まらなかった。

 マウンドで意識が遠のく時、ストライプのユニホームが駆け寄ってくるのが見えた。中学の時、さいたま市の選抜チームで共に戦った浦和学院の「背番号16」赤岩航輔主将(3年)だった。三塁コーチを務めていた“先輩”は優しく肩を貸してくれた。「気付いていました。感謝しています」。悔しくてたまらなかった。でも、あったかい夏だった。【和田美保】