一塁側ベンチを出た上野学園の岡田海希人投手(3年)が泣き崩れた。昨年初の8強入りを果たした第2シード校が初戦で消えた。主将も兼ねる岡田は被安打13の9失点。一瞬にして夏が終わった。「裕斗(鈴木三塁手=3年)に申し訳ない。戻って来るまで勝つと言ったのに…」。

 4番を任され、野手リーダーでもある鈴木は3日前(12日)、体調不良を訴えて都内の病院に入院した。「感染性腸炎」。隔離棟に入れられた。昨夏も4番、8強を導いた打のヒーローだった。161センチ、90キロの体で愛称は「ちゃんこ」。「おかわり君」とも呼ばれた。頼れる人気者はこの日、背番号5のユニホームだけがベンチ入りした。

 小川貴智監督は14日、入院先を訪ねた。「食べられず、点滴でした。次18日の試合までには退院できて、出場は無理でもベンチに入れると思ったんですが」。食べられるようになれば、と「大盛りやきそば」が見舞いの品だった。

 この日、神宮球場入りするバスの中で、鈴木のメッセージが告げられた。「周りを見て、声をかけて。1人じゃない、大丈夫だ、と思ってやろう」。5回には背番号5のユニホームをベンチから持ち出して円陣を組んだ。「裕斗をフィールドに立たせよう」と全員で声を掛け合った。

 鈴木はグラブ職人を志望しており、野球は今夏が最後だった。岡田は「調子は悪くなかった。受け身になったのが」。仲間を最後の舞台に立たせられなかった岡田の涙は、球場を出ても止まらなかった。