カナノウ旋風だ! 第100回全国高校野球選手権大会で、金足農(秋田)が逆転サヨナラ2ランスクイズで近江(滋賀)に勝ち、84年以来の4強進出を決めた。最速150キロ右腕・吉田輝星(3年)が左足股関節痛をおして10奪三振2失点で投げきると、9回裏無死満塁、二塁走者の菊地彪吾(ひゅうご)外野手(3年)が、斎藤璃玖内野手(3年)のスクイズで、三塁走者に続いて一気に生還した。第1回大会で準優勝した秋田中以来となる決勝進出をかけて、明日20日、日大三(西東京)と対戦する。

 甲子園の手拍子が鳴りやまない。吉田の力投が、4万人以上の観衆の心を動かした。9回2死一、二塁。こん身の140球目、近江の9番瀬川に投じた141キロ直球で内角をえぐる。4戦連続の2桁三振を奪った瞬間、場内が拍手に包まれ銀傘に反響した。それが、逆転サヨナラ勝ちへの導火線となった。

 吉田 (9回は)3者連続三振もいいなと思ったけど、結果ピンチになってしまった。そこで三振を取ればもっと盛り上がると思った。甲子園が自分たちの味方をしてくれている。その流れに乗っちゃおう、と。それをつくろうと思った。

 痛みをおしての力投だった。横浜との3回戦の5回ぐらいから左足付け根の股関節を痛めていた。この日の朝は「起きるのが嫌なぐらい」痛かった。同部屋の菊地亮太捕手(3年)には「投げられないかも」と明かしていたが、マッサージなどの処置で痛みが和らぎ、試合前の室内練習場で先発を直訴した。中泉一豊監督(45)からは「お前の野球人生、ここが終わりじゃない。よく考えろ」と言われても、吉田の決意は揺るがなかった。「球場に着いた時はだいぶ良くなった。ここで負けるわけにもいかなかった」と決死の覚悟でマウンドに立った。

 序盤から球は走らず、最速は146キロ止まり。それでも強力近江打線を2点に抑えた。勝ち越しを許した6回1死一塁では好フィールディングで流れを断ち切った。投前へ浮いたバント小飛球を捕球せず意図的に落としてから、二塁に送球。併殺につなげた。「打者が走ってなかった。そのまま落として(アウトを)2つ取れるなと。体に染み付くぐらい練習してきた」と、公式戦で初めて決めたプレーに胸を張った。

 運命が引き寄せ合う。明日20日、準決勝第1試合のレジェンド始球式には、PL学園出身の桑田真澄氏(50)が登板する。34年前の先輩たちの決勝進出を阻んだ因縁の相手だ。吉田はけん制、フィールディング、打撃などすべてが高水準を誇り「桑田2世」の異名を持つ。本家との対面に「実は楽しみなんですよ」と笑った。甲子園に巻き起こるカナノウ旋風。その中心に吉田がいる。【高橋洋平】

 ◆4試合連続2桁奪三振 金足農・吉田が記録。12年松井裕樹(桐光学園=現楽天)以来大会最多タイ(7人目)。