静岡高の小岩和音(あのん)主将(3年)が、意地の一打で伝統校の誇りを見せた。3点を追う8回裏2死一塁で、左前への適時打。一塁上から仲間のいるベンチへ拳を上げた。「ここからいくぞ!という気持ちでした」。追いつくことはできなかったが「自分たちらしく、粘り強く戦えた。悔いはありません」と胸を張った。

10人きょうだいの次男の小岩はこの日、最愛の家族の前でプレー。三男・響輝さん(16)と四女・風笛さん(3)は来ることができなかったが、長男・奏楽さん(20)、四男・弦流さん(15)、長女・歌姫さん(13)、次女・心琴さん(12)、五男・聖鈴さん(11)、三女・麗律さん(9)、六男・舞夢さん(6)がスタンドから声援を送った。

父・雅美さん(47)によれば、幼いころは泣き虫だったという。それでも、きょうだいが増えるたびに責任感も増した。弟や妹の世話をすることで精神的にも成長。「感情に左右されることがなくなり、それが今につながっていると思います」と話した。静高進学のため、浜松市から静岡市へ引っ越す際には、父の運転できょうだいとともに下宿先へ。雅美さんは「別れ際は、寂しそうな表情をしていました」と振り返る。

それから2年半。たくましくなった小岩は、主将としてチームを甲子園へ導いた。この日、球場へ向かうバスの中で家族から送られた手紙や寄せ書きを見て気持ちを高めたという。試合に敗れ、表情に悔しさをにじませたが、家族へ伝えたいことを聞かれると「自分だけの力ではここまで来られなかった。感謝の思いを伝えたいです」と表情を緩ませた。【河合萌彦】

◆小岩和音(こいわ・あのん) 2001年(平13)7月9日、大阪府生まれ。浜松市の上島小1年からソフトボールを始める。同年冬から2年間を米国で過ごし、現地リトルリーグでプレーした。10人きょうだいの次男。名前は、ヤマハに勤務する父雅美さんが命名。兄弟の他9人も音楽を連想させる名がつけられている。右投げ右打ち。172センチ、73キロ。血液型O。