全国の高校球児で唯一無二のナックルボーラーの桜井・岡本斉悟投手(3年)が健闘むなしく、敗れた。独特に揺れ動く変化球を操る。本領発揮したのは勝ち越した直後の5回1死一、二塁。バントミスを誘ってポップフライになり、一塁走者も戻れず、ダブルプレーでピンチを脱出した。

「あれは揺れてくる球です。ほぼ運です。真ん中めがけて投げて相手に振ってもらわないといけない」

奈良・橿原中では直球も用いていたが「高校は直球が通用しない」との思いからナックルボーラーとして生きる道を選んだ。小学校の頃に握りを教わり、1つの球種として用いていたという。この日は100球のうち、実に98球がナックルだった。山なりの軌道で揺れ動く。球は緩く、けん制球やイニング間のキャッチボールの方が速いほど。直球の最速は112キロで、この日投げた2球も見せ球だ。

必死に粘った。1回、制球が定まらず3四球から1点を失った。3、4回も1点ずつ失ったが、郡山打線もタイミングを合わせるのに四苦八苦。バットの芯を外して凡打を量産した。5回3失点で、リードして継投に入った。畑井謙治監督(61)は「郡山打線を最少失点に抑えてくれた。外、内、落ちるのか分からない球。(日本高野連加盟校の約)4000校のなかで1人しかいないでしょう」と話すなど、高校球界でも、かなり希少な投手だ。

関係者に「全球ナックルボールらしい」とウワサされたが大げさではない。岡本は「練習試合でも球数が極端に少なくなる。疲れがない」と話す。緩い球で打ち気をあおり、打ち損じを誘う。練習試合では9回で104球もあった。今春の実戦は防御率1点台で、初めて背番号1を背負う。

大リーグにナックルボールの使い手として有名な元レッドソックスのウェークフィールドがいる。「動画は見ました。でも、全然投げ方が違うし、マネできません」。誰も通らない道を歩む。自ら試行錯誤し、エースの座をつかんだ。「体の後ろにいれてはいけません。できるだけ体から離してリリースすることが大事です」。春6回、夏6回出場の郡山を手玉に取るシーンも多く、意地を見せた。

この日、直前の試合では最速148キロで今秋ドラフト候補の天理・達孝太投手(3年)が登板した。同じマウンドで、まったく趣が異なる、人を食ったような変化球で勝負する高校球児が力投した。岡本は言う。「全体的に惜しい試合ですが、それでは夏は終わり。次はない。自分が四球を少なくするのが、夏の課題です」。勝負の季節を見据えて、自分だけの技を磨く。【酒井俊作】