野球漫画「ドカベン」「あぶさん」などで人気を集めた漫画家の水島新司さんが10日、肺炎のため東京都内の病院で死去した。82歳だった。

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水島さんは、漫画を通じて野球のルール、そして野球の面白さを伝えた。

作品は甲子園のメークドラマにも生かされた。“ドカベン走塁”で、12年夏の大会で話題となったのが、熊本県代表の公立進学校、済々黌(せいせいこう)。野球規則にあるアピールプレーを漫画を通じて予習し、抜け目のない得点で沸かせた。当時監督の池田満頼さん(49=現同校外部コーチ)は「(ドカベンは)野球をする時にいろいろなルールを学ぶツールでした。奇想天外な野球だが、勉強になりました。僕らでは考え及ばないアイデアで打ったりする」と回顧する。

「野球小僧にとっては、とても楽しい漫画だったんで、よく読みました」。指導者になる際に改めてドカベンを読み直し、ルールの重要性を再認識したという。練習ではシートノックにアピールプレーを組み込んでいた。「ルールを利用するわけじゃないが、こういう場面はこうした方がいいなとか、そういう練習を常日頃からやっていました。(12年の夏は)たまたま甲子園で出たというプレーでした」。池田さんは甲子園後、ドカベンを新たに全巻買いそろえて息子に読ませたほど、影響を受けた。

三塁から「ドカベンルール」で生還した当時3年で二塁手だった中村謙太さん(27=会社員)は「三塁ランナーは定石なら(三塁に)戻るが、ホームが早ければ、ドカベンルールで点が入ることに懸けた。共通認識だった」と振り返る。小学2年から図書館で借りては夢中で読み込んだという。球児から愛され続けた水島さんだった。【菊川光一】

◆12年夏の済々黌-鳴門VTR 済々黌が2-1とリードした7回1死一、三塁、2番西の当たりは遊撃へ。鳴門・河野がダイレクト捕球し、一塁に送球して併殺とした。しかし、この間に三塁走者の中村謙が帰塁せず、一塁アウトより早く本塁を踏んで生還。野球規則にあるアピールプレーの1つで、鳴門が三塁にボールを送りアピールすれば得点は入らなかったが、守備側のアピールがなく得点が認められた。ホームを踏んだ中村謙はドカベンでのシーンを小学生時代に読んでおり、「捕った遊撃手が一塁を見たんで、いけると思いました」とコメント。試合は済々黌が3-1で勝利した。