<全国高校野球選手権:明豊4-0西条>◇16日◇2回戦

 明豊の4番阿部の打球は左翼スタンドに突き刺さった。8回1死二塁からとどめの2ラン。打球がフェンスを越えたのを確認すると、マウンドの西条(愛媛)の秋山拓巳(3年)は帽子を取って大きく息をついた。アルプスから見ていた父正二さん(45)は、打球の落下点を見つめながら「甘かったな」とつぶやいた。

 正二さんも小学生のとき、ソフトボールをしていた。うまくなる自信もあった。プロ野球選手になりたかったが、無理なことは悟っていた。必死に共働きする両親を見て「お金がかかる」とあきらめた。

 大人になって、造船所に職を得た。結婚して、3476グラムという大きな男の子を授かった。夢を託そう。小学生になったら、野球をさせよう。「チームに入って、恥ずかしくないように」と4歳のころからキャッチボールの相手をして「プロ野球選手になるんやぞ」と言い聞かせた。だが、息子は「プロ野球選手になる」と1度も言わない。「夢を押しつけてるんやないか…」と思うようになった。

 6月。高校最後の夏の愛媛大会が始まる直前に聞いた。「どうするんや?」。勉強机に向かっていた息子は振り向いた。「プロでやりたい」。初めて聞いた息子の希望だった。

 この日の明豊戦後。秋山は「プロで活躍するのが小さいころからの夢です」と堂々、言い放った。涙をこらえた真っ赤な目で、6月に父に明かした夢をそのまま口にした。高校野球が終わっても、秋山父子の野球はまだ終わらない。【鎌田真一郎】