<全国高校野球選手権:前橋商3-0宇和島東>◇8日◇1回戦

 前橋商(群馬)の小さなエースが今大会完封勝利一番乗りを果たした。163センチと参加49校で最も小柄なエース野口亮太投手(3年)が、カーブ、スクリューボールを効果的に使って宇和島東(愛媛)打線を3安打9三振に抑えた。07年12月に心不全で亡くなった父利治さん(享年55)にささげる甲子園の初勝利だった。

 163センチが大きく見えた。野口は躍動感のあるフォームから、130キロ前後の直球とカーブ、スライダー、スクリューボールにカットボールで丁寧にコーナーを突いた。「小さいなら浮き上がるような球を投げればいい。打者の構えや表情を見て、相手の読んでいないボールを投げるように心掛けている」という頭脳的な投球で、8回を除く毎回の9三振を奪った。

 6回の先頭打者に初安打を許したが、今度は「自信がある。狙った」というけん制で相手の裏をかいた。次打者への初球の前に緩いけん制を2度行い、捕手とサイン交換を行った後に素早い球を一塁に送って刺した。7回にも2死一塁で走者をアウトにした。最後の打者を遊ゴロに打ち取り、終わってみれば散発の3安打で今大会初の完封勝利を飾った。「良いピッチャーがたくさんいる中で、最初にできたのはうれしい」と喜んだ。富岡潤一監督(44)は「小さくても、ウチの大きなエースです」とたたえた。

 07年12月27日、父利治さんが心不全で亡くなった。中学時代、野球をする時はいつもそばにいた。試合には必ず応援に来てくれた。昨春のセンバツ出場時、グラブに「見てろよ親父」と刺しゅうを入れたが初戦敗退。今夏は帽子のつばに「リベンジ」と書いた。言葉通りの結果を出し「甲子園で勝った姿を見せてなかった。まだまだ夏は終わらないよと言いたい」と天国の父に向けて、さわやかに言った。

 7月31日、群馬での最後の練習後に、富岡監督が選手、関係者らにアイスの「ガリガリ君」を100本振る舞った。食べ終わると、野口の棒にだけ「当たり」。ナインは「やっぱ野口はもっているなぁ」と沸いた。7回に死球が当たり、読みも当たって亡き父に大きな1勝を届けた。【今井恵太】