<高校野球春季岩手県大会:花巻東10-4水沢>◇25日◇決勝◇岩手県営野球場

 花巻東が水沢を10-4で破り、2年ぶり5度目の優勝(前身の花巻商含む)を飾った。191センチの右腕エース大谷翔平(2年)が、決勝は右翼手で先発して3安打2打点。バットで頂点に導いた。学校は内陸にあるが、沿岸出身の部員6人が東日本大震災の津波で実家を流失。開催すら危ぶまれた大会で一丸となり、夏への第1歩を踏み出した。

 最速151キロの怪腕大谷が、この日はバットで引っ張った。まずは1回1死二塁。右翼フェンス直撃の適時二塁打を放ち、初回に打席が回ってきた今大会の4試合すべてで打点を記録。続く3回無死から中越え三塁打、4回1死三塁で中前適時打と固め打ちした。サイクル安打がかかった4、5打席目は左飛と右飛に終わったが、大会通算11安打9打点。「去年は決勝で負けたので絶対に優勝したかった」と笑顔を見せた。

 1年春から4番に座り、既に高校通算25本塁打と打撃センスも非凡。4日の花巻地区予選1回戦(対花巻南)ではサイクル安打を達成した。第1打席から三塁打、本塁打、二塁打、単打の4打席で成立。5回コールド勝ちの参考記録ながら、投げてはノーヒットノーランの独壇場だった。

 その大谷が、優勝を遂げた後に繰り返した。「東日本大震災の被害を受けた沿岸出身の仲間がいる。何としても勝ちたかった」。同校に沿岸部から進学した部員10人のうち6人が自宅を流失。大谷の女房役、佐々木隆貴捕手(2年)は大槌町の自宅が全壊し、父方の祖父母を津波で亡くした。「簡単には、気持ちを切り替えられなかった。でも、仲間や監督さんに励まされ、野球で恩返しするしかないと思った。優勝できて良かった」と神妙に話した。

 内陸にも震災の影響は及び、花巻東は4月上旬まで本格的に練習できなかった。同下旬には部員が被災地を回って被害の大きさを痛感。佐々木洋監督(35)は言った。「この大会という目標があったから、各校の生徒たちは一生懸命やってきた。勝ち負けは抜きにして、前に踏み出せたんじゃないでしょうか」。宮城と福島が春季大会を中止にした中、岩手は決行した。満足に練習できない中で真剣に勝負し、現状を知った。すべては夏につながっていく。【木下淳】