福島の球児が原発事故に苦しんでいる一方で、宮城の球児も震災の爪痕に苦しんでいる。

 旧北上川沿いにある石巻商の校舎の周りには、震災で生じたがれきが、うずたかく積まれている。石巻市によると、その量は10万7000トンに及ぶ。高さ10メートル近いがれきの山から粉じんと悪臭が漂い、授業や部活動に支障が出ている。練習中はマスクが欠かせない。息はすぐに上がる。汗をかけば肌にまとわりついて不快だ。だが、1度外せば耐えがたいにおいとほこりで、練習どころではなくなる。石巻市の西隣の東松島市から通う岡本侑也主将(3年)は言う。「空気が違う。練習試合から帰って来ても違いを感じる」。

 練習を再開した4月21日、がれきの量はわずかだったという。それが、1週間ほどで山のように積み上がった。水沼武晴監督(48)は「最初は端に少しだけなのに、あっという間だった」。がれきは木材、家電やたたみなどに分類されている。安田麻利子マネジャー(3年)は「冷蔵庫があるところは、息もできない」と顔をゆがめる。

 がれきのある校舎北西側からの風は「ほこりっぽい」。海がある南からの風は「ヘドロのにおい」。においだけで風向きが分かるほど。乾燥して気温が高い日は、においも粉じんもひどくなるという。ハエも大量発生し、各教室につるしているハエ取り紙は2、3日で真っ黒になる。蚊が増える季節を迎え、水沼監督は「どんな病原菌を持っているかも分からない」と表情を曇らせる。

 石巻市は粉じんが飛散しないためのシートをかぶせる応急措置を取ったが、「目がかゆい」「胸が苦しい」などの不調を訴える部員がいる。肺炎になった教諭もいる。上総通教頭(52)は「医師も粉じんが原因だろうと言っている」。国立環境研究所が付近の空気を分析中。水沼監督は「結果が良くなければ、ここにいられなくなるのかという不安もある」と率直な心境を吐露する。

 石巻市は来月中にも、がれきを他の場所へ移す予定という。自分たちの学校で授業を受け、自分たちのグラウンドで野球ができる。とはいえ、直面している問題には「目に見えない恐怖」がある。【今井恵太】