<全国高校野球選手権:帝京8-7花巻東>◇7日◇1回戦

 あきらめない気持ちが岩手に届いた!

 2年ぶり6度目出場の花巻東(岩手)は、帝京(東東京)に1点届かず敗れた。常に先行を許す展開だったが、強豪相手に3度も追いつく粘りで甲子園を沸かせた。スクランブル登板した右腕エース大谷翔平ら、先発9人中6人が2年生の若いチームが、東日本大震災で被災した岩手に健闘を届けた。

 「あきらめない」。花巻東の精神に、4万4000人が惜しみない拍手を送った。春夏計3度の優勝を誇る帝京相手に、1歩も退かない。2点を追う1回裏2死満塁で、高橋翔飛(2年)が左中間に2点適時打。3-5の4回2死二、三塁では、杉田蓮人(3年)が右前に2点適時打を運んだ。

 甲子園のボルテージが最高潮に達したのは、6回無死二、三塁。3番大谷が3度目の同点打を放った時だった。左打席から逆方向への打球が、左翼フェンスを直撃。2者が生還し、一塁上で手をたたき、ガッツポーズした。記録は単打。左太もも裏を肉離れし「痛くて二塁まで走れなかった」中で、殊勲打を放った。

 「花巻東ではなく、岩手の代表として戦う」。こう話していた佐々木洋監督(36)は、3度も追いつく展開に感情を抑えきれなかった。「選手はよく打った。岩手の粘り強さを見せられたと思う。ただ、岩手に、明るい話題を届けられなくて。残念です…」。お立ち台の共同インタビュー中に顔を覆い、むせび泣いた。

 沿岸部出身の部員10人中6人が、津波で自宅を失った。内陸・花巻の寮は、ライフラインが寸断。寮長をしている佐々木監督は「女子寮の子を避難所に連れていき、男子寮の子は、内陸の子の自宅で預かってもらった」。一時帰宅した大谷も「自宅で、沿岸出身の仲間の心配ばかりしていた」と父徹さん(49)は振り返る。

 部室に震災被害の惨状を報じる新聞を張り「語るのではなく、岩手の底力を、勝つことで見せたい」。7回の守備機会から出場した菊池倭(やまと=3年)は「花巻東史上初の控えキャプテン」として、揺れるチームをまとめ上げてきた。

 先発9人のうち2年生6人と若い。5月の春季大会後、ふがいない練習試合に佐々木監督が激怒した。大谷とともに1年夏から出場し、6回に難しい内角球を右翼線三塁打にした太田知将(2年)は「3年生が、かばってくれた。『2年のせいじゃないよ』って」。

 その後2年生でミーティングを開き「3年生のため頑張ろう」と一致団結。そして「家や家族を亡くした仲間がいる。岩手に勇気を与える試合をしよう」と、あきらめない姿勢をプレーに込めた。大きな拍手に包まれた甲子園に、1度別れを告げる。来年の甲子園で期待に応えるため、愛する岩手で力を蓄える。【木下淳】