<全国高校野球選手権:日大三11-0光星学院>◇20日◇決勝

 日大三(西東京)が2001年(平13)以来10年ぶり2度目の優勝を果たした。エース吉永健太朗投手(3年)は散発5安打、今大会2度目の完封で締めくくった。

 やっと笑えた。日大三・吉永が思いきり投げ込んだ高めの直球に、光星学院・荒屋敷のバットは大きく空を切った。5安打完封。「最後は三振を狙いました。この優勝のためにやってきた。気持ち良かった」。両拳を突き上げ、白い歯を見せてにっこり。最高の瞬間を聖地のマウンドで迎えられる。それは日本一のエースの勲章だった。

 春以降、吉永の表情は晴れなかった。「優勝候補」「大会NO・1投手」。センバツでのしかかった言葉だ。その重さを受け止めきれず、4強で敗退。帰京後には肩の痛みを訴えた。5月の関東大会は出番なく、準決勝敗退。キャッチボールや遠投すら満足にできない背番号「1」に、野手陣の信頼は揺らいでいった。

 そんなとき事件は起きた。選手間ミーティングで主将の畔上が一喝。「お前がしっかりしないでどうすんだよ!

 エースだろ」。痛みも、投げることへの恐怖も、誰も代わってはくれない。肩が張っても遠投の距離を延ばし、チューブでインナーマッスルを鍛えた。西東京大会前には畔上に「甘えてて悪かった」と謝罪。吉永は少しずつ、「エース」になっていった。

 4カ月前とは別人だった。3連投で球威が落ちても「試合を重ねるごとに球に指がかかる」。リリース時に回転をきかせてフライアウトを増やし、最後の1球もこの日最速タイの145キロを計測。自由自在に白球を操った。全6試合中5試合で完投するなど766球を投げ、肩のスタミナも克服した。

 今大会では自己最速の149キロもマークし、プロスカウトの注目も集めた。進路について「監督さんと相談して決めます」と話すにとどめたが、関係者の話を総合すると早大を受験する意向という。

 西東京大会決勝では、優勝にも感極まって泣いてしまった。だが今回は「決勝で完封なんて、今までで一番うれしい」と、喜んで黒土を袋に詰めた。曇天も吹き飛ばすようなさわやかな笑顔が、吉永にはよく似合っている。【鎌田良美】