<全国高校野球選手権:日大三11-0光星学院>◇20日◇決勝

 日大三(西東京)が記録的猛打で2001年(平13)以来10年ぶり2度目の優勝を果たした。3回に5番高山俊外野手(3年)の中越え3ランで先制。7回には5安打で5点を奪うなど13安打を放ち、東北勢初優勝を狙った光星学院(青森)に圧勝した。大会史上4チーム目の6試合連続2ケタ安打を放ち、1大会4試合の2ケタ得点は、21年優勝の和歌山中以来90年ぶりだった。

 最後は感傷に浸れるほどの余裕があった。5打点で圧勝劇を呼んだ日大三・高山は「つらい練習をしたことが込み上げてきた」と右翼からゆっくり駆けだした。年末恒例の1日13時間、2週間に及ぶ強化合宿。厳しい“修業”を思い出し、歓喜の輪に加わった。

 先制弾は衝撃的だった。3回裏2死一、三塁の初球、129キロのスライダーを捉え、弾丸ライナーの中越え3ラン。「あまり力はないんです」とベンチプレスは75キロと平均的だが、2年時からチームトップだった時速148キロのスイングスピードで高校通算30号をぶち込んだ。千葉・七林中では船橋中央シニアで野球をしながら陸上の200メートル走で県上位の常連だった高い運動能力の持ち主。5回表2死一、二塁の守備では右前打を捕球し、定位置付近から本塁へワンバウンド送球し補殺。遠投105メートルの強肩で反撃の芽を摘んだ。

 挫折も味わった。レギュラーで出場した昨春センバツでは、15打数2安打の不振で決勝のスタメンから外れた。チームも興南(沖縄)に打ち負け、あと1歩で頂点を逃し涙した。そのときの主力が高山のほか畔上、横尾ら現在のクリーンアップ。リベンジを誓い秋の神宮を制した新チームは「日本一練習して、日本一の力があると思っていた」(高山)。だが、公式戦無敗で乗り込んだ今春センバツは準決勝で九州国際大付(福岡)に完敗した。

 負けられない最後の夏。前日19日の夕食時に、和やかなムードを中軸3人が一変させた。「マジでここで負けたら(西東京)1回戦で清瀬に負けた方がマシだから」。一瞬の緊張感が走ると、選手全員に「オレたちは勝つために来た」という気持ちが戻った。4番横尾は「光星より自分たちの方が(決勝で)負けた悔しさを知っていたんだと思う」と大差の理由を語った。

 頂点への悲壮感は感じさせなかった。なぜか。この日4安打3打点で今大会打率6割2分5厘、12打点の横尾は「本塁打1本より(計)15安打がうれしい。大会になると、みんなで打率を競争するんです」。勝利への執念と個々の遊び心が生んだ、6戦61点での栄冠だった。【清水智彦】