<国体高校野球:金沢3-3能代商>◇2日◇1回戦◇山口・ユーピーアールスタジアム

 今夏甲子園16強の能代商(秋田)が、笑顔のフィナーレを迎えた。同16強の金沢(石川)と対戦し同点で9回を終了。国体の規定による抽選の結果、準々決勝には進めなかったが、最速131キロの左腕エース保坂祐樹(3年)が同153キロ右腕の釜田佳直(3年)と対決で完全燃焼した。

 1点リードの9回裏1死一、三塁。保坂が投じた141球目が右犠飛となり追いつかれた。ピンチは続いたが、延長12回でサヨナラ負けした甲子園のわずかな悔いを、後続を右飛に仕留めて断ち切った。同点で終了。両校9人が引く18分の1の抽選となった。くじを笑顔で握り締めた保坂。結果、上位進出は金沢に譲ったが「釜田君との勝負を楽しめた。悔いはない」と言い切れた。

 高校最後の試合に信念を込めた。最速131キロの自身に対し、釜田は世代最速の153キロ。だが「球速じゃない。武器は角度と制球」と愚直にコースを突く。昨年から球速も変化球も同じ。「今ある武器を磨いた方がいい」と話していた通り、球の回転数=キレを追い求めてきた。

 2-1の5回表の攻撃では、自らの投手強襲安打で1死満塁とし、一塁手で先発していた釜田を引きずり出す。その後、9回まで投げ合った釜田から「外角は絶妙なシュート回転、内角はピュッと球が来て打ちづらかった」と評価された。信じた道は正しかった。

 1年夏は秋田大会初戦敗退。2年夏は25年ぶりの甲子園出場も、初戦で鹿児島実に0-15で惨敗した。集大成の3年夏。県勢の初戦連敗を13で止め、16強(2勝)と歴史を塗り替えた。工藤明監督(35)は「あきらめない気持ちを持ち続けられる代でした」。保坂も「物事がいい方向に進んでくれた3年間でした」。予想を上回るフィナーレに、心から言えた。「努力は実る。努力して良かった」。【木下淳】

 ○…保坂は今後、中大準硬式野球部の推薦試験に専念する。学部は商学部。合格すれば工藤監督と同じ経歴で「去年の夏から決めていた。硬式にこだわらず、野球と勉強を両立させたい」と話した。高校入学時は地域トップ校に進める成績だったが、野球をするため能代商を選んだ。今度は学業を優先する。山田一貴主将(3年)はJR東日本秋田入りが内定。亡くなった両親代わりの祖父母から離れられない、と地元の野球部と就職先を探していた。