<センバツ高校野球:高崎健康福祉大高崎9-3天理>◇22日◇1回戦

 超積極走塁で県の歴史を変えた。初出場の高崎健康福祉大高崎(群馬)が、機動力野球で伝統校の天理(奈良)を下した。同点で迎えた7回、一塁走者の小林良太郎(3年)が左中間に落ちる打球で一気に生還して勝ち越し。群馬県勢のセンバツ初戦敗退を11大会連続で止めた。

 機動力野球がさく裂した。2-2で迎えた7回無死一塁。健大高崎は相手のバントシフトに対し、バスターを仕掛けた。打球が左中間に飛ぶと、一塁走者の小林は二塁手前で打球から目を切った。「ボールを見ているとダメだと葛原(毅)コーチに言われている」。野手の動きから直接捕球がないと判断。走りを加速させた。三塁コーチの斎藤は手を回している。「1点取れたら一気に流れがくる」と、ちゅうちょなく本塁を目指した。

 大概の高校なら三塁で止まるタイミングだ。左翼手からの中継に入った天理・吉村遊撃手は「走者が三塁で止まるかと…。頭が真っ白になった」。三塁を駆け抜ける小林の姿に、一瞬の間が生まれた。本塁転送が遅れ、勝ち越し点が生まれた。まるで、87年日本シリーズで西武辻が中前打で一塁から生還したプレーをほうふつさせるシーン。50メートル6秒8で、「足の速さはチームの後ろから数番目」という小林だが、「1回でもスピードを緩めたらアウトだった。走塁に足の速い遅いは関係ないんです」と胸を張った。

 健大高崎が機動力重視に転換したのは、10年夏の群馬大会準決勝(前橋工戦)だ。最速140キロ台の投手を3人、180センチ以上の野手もそろえたが0-1で敗戦。東北福祉大で中日和田とクリーンアップを組んだ188センチの青柳博文監督(39)は「ムラがある。いつまでもこれでは勝てない」と方針転換。元大砲はスピードを追求し、昨夏の甲子園初出場につなげた。

 7盗塁したが、相手の隙を突く、巧みな走塁も多々あった。これは「実戦経験」のたまもの。ナイター設備があり、平日午後も含め週4試合をこなす。練習も「1本バッティング」と呼ばれる走者付きシート打撃が中心。打球判断を磨く機会が豊富なのだ。試合前「伝統校との対戦は分岐点になる」と話していた青柳監督は、試合後「高校時代は天理にあこがれていた」と告白した。02年創部の新興校に、旋風の予感が漂う。【斎藤直樹】

 ◆西武辻の好走塁

 87年日本シリーズの西武対巨人第6戦。西武は8回2死無走者から安打で出た辻が、続く秋山の中前打で一挙にホームを陥れた。伊原三塁コーチは巨人クロマティが緩慢な返球の際にスキを見せる、というデータを事前に入手。さらに中継に入る遊撃手川相が打者走者の二進をけん制する動きも研究済み。川相が走者辻から目を離した瞬間を見逃さず、本塁突入を命じた。貴重な3点目を挙げた西武は3-1で逃げ切り、4勝2敗でシリーズを制した。