<センバツ高校野球:横浜4-0高知>◇26日◇1回戦

 横浜(神奈川)はけがから復活したエース柳裕也(3年)が高知を3安打完封し、渡辺元智監督(67)の甲子園通算50勝に王手をかけた。

 9回は特別な思いを込めた。ふうっと一息。目線を上げると、柳はわずか8球で、3人を内野ゴロに仕留めた。被安打3の公式戦初完封。走者が二塁に進んだのは1度きりだ。「たまたまです。過去の横浜の先輩たちには足元にも及ばない」。極めて謙虚な第一声だが、マウンドを支配する存在感は名門の背番号1にふさわしかった。

 “ここ”にはトラウマがある。昨夏の甲子園3回戦。3点リードの9回、柳は先頭打者に中前打され交代を告げられた。その後まさかの8失点で大逆転負け。「あの1球から、完投にこだわりが出ました」。レッドソックス松坂や西武涌井も当時おそれた練習メニュー、アメリカンノックで体力と根性を養い、念願の完投で38年前にサヨナラ負けした高知を下した。

 右肩上がりに見える柳の折れ線グラフ。だが実は谷ばかりだった。秋の関東大会準々決勝では、バントで右手人さし指の爪をはがし敗退。寮の食事をコラーゲンと軟骨多めにかえるなど工夫しても、年明けまでボールが触れなかった。やむなく走り込みを増やすと、2月には右足中足骨が疲労骨折寸前で悲鳴を上げた。

 今なら「あのけがも良かったと思えます」と笑える。けがの功名で、人さし指に負担がかからないチェンジアップは精度を増し、左打者の外角で空振りを量産。上半身と下半身を交互にけがしたため、トレーニングもバランスよく積めた。

 渡辺監督は、歴代4人目の甲子園通算50勝に王手。柳も中学時代に全著書を読破したほどあこがれた名将だ。「ウイニングボールは自分の手で渡したい」。次戦もマウンドは譲らない。【鎌田良美】