<全国高校野球選手権:福井工大福井4-2常葉学園橘>◇8日◇1回戦

 「魔球使い」の三振ショーで夏の甲子園が開幕した。福井工大福井(福井)の菅原秀投手(3年)が開幕戦で、最速145キロの速球とナックルカーブを駆使し常葉学園橘(静岡)を翻弄(ほんろう)。初の大舞台で2ケタ10三振を奪い、5安打2失点で完投勝利を挙げた。

 菅原の右手を離れた白球が、本塁手前で大きく鋭く曲がり落ちた。2回1死、1ボール2ストライクから5番増田に投じた123キロのナックルカーブ。空振りを奪っただけでなく、捕手さえも捕れない。記録は暴投、振り逃げとなったが、球の切れ味にスタンドがざわついた。

 「直球に切れがあった上、あのカーブがあったので打ちづらかった」(増田)。最大の見せ場は5回だった。連打と暴投で1点を返され、なおも無死三塁。菅原はここで6球中5球ナックルカーブを投げ、傷口が広がるのを防いだ。10奪三振のうち、4個を決め球で奪った。3三振した3番城戸を「見たことありません」と驚かせた。

 「切れはよかったです。(今年の)4月に(試合で)投げ出してから、まだ1本もクリーンヒットを打たれていません」。人さし指のツメを立て、中指と親指でボールを支える。薬指と小指は通常のカーブと同じ位置だ。リリースの瞬間に人さし指のツメでボールをはじく。直球と同じ腕の振りから繰り出される120キロ台のボールは、きれいな縦の回転を宿し、一瞬フワリと浮き上がる。最高到達点に達した瞬間から小さい揺れとともに急激に落ちていく。

 女房役の真鍋毅捕手(3年)も当初は対応できなかった。「真たてに落ちるんです。今は捕ろうと思ってません。なんとか体に当てようとしています」。昨秋中日入りした同校OB宋相勲(ソン・サンフン)がドラフト前に学校を訪れた際、投げ方を教わった。投手陣の中で唯一マスターしたのが、菅原だった。

 「使えると思いました。苦労もなかった」。1球投げただけで、モノにできると確信したという。ナックルカーブとの出合いがあったからこそ、同校を8年ぶりの甲子園に導くことができた。それでも、理想はまだまだ高い。「(今日は)バットに当てられたので、(次は)ボール1つ分低めに投げたい」。魔球使いが暑い夏の始まりを告げた。【池本泰尚】

 ◆菅原秀(すがはら・しゅう)1994年(平6)4月5日、大阪府生まれ。11歳から1年間サッカーを習い、山田東中学校時代に学校の野球部で野球を始める。福井工大福井では2年秋からベンチ入り。好きな言葉は「感謝」。50メートル6秒5、遠投110メートル。家族は父、母、兄と弟3人。182センチ、75キロ。右投げ左打ち。