<全国高校野球選手権:桐光学園4-1浦添商>◇19日◇3回戦

 桐光学園(神奈川)のドクターK、松井裕樹投手(2年)が新境地を見せた。奪三振数が注目される中、簡単に空振りしない浦添商(沖縄)打線に対し、打ち取る投球を披露。今後の連戦を見据え、球数を減らす作戦に出た。だが8回に得意のスライダーを被弾すると一変。「悔しかったので」と後続を3者連続三振に切り、結局3戦連続2ケタの12奪三振で4安打1失点完投とした。チームは初の準々決勝進出。松井の通算奪三振は53まで伸びた。

 “宝刀”のスライダーを左翼スタンドへ運ばれ、松井のリミッターが外れた。「完封を狙ったので悔しくて。100%を120%に。ギアチェンジしてフルパワーでいきました」。直後の8回無死から145キロ、145キロ、142キロの直球で3者連続空振り三振。9回も3三振とし、それまでの打ち取る投球から一転。12三振で、3戦連続2ケタKの大台に乗せた。

 「脱ドクターK」がテーマだった。1回。浦添商の先頭打者に「決めにいった」高速スライダーを合わされ中前打された。2回まで31球中、空振りはわずか3球。研究されていた。初戦から続いた毎回奪三振も19回目で途切れ「打たせて取る投球に切り替えました」。連戦を見据え、球数を減らす省エネ狙いもあった。

 3回の初球が、意識の変化を表している。三振を取るスライダーは120キロ台中盤。対して、ボールとなった初球は115キロ。「打たせたい時はゆっくりめがいいんです」。打球方向まで考え、1つの球種でも速度を変えた。

 意味深発言の謎も解けた。2回戦後のインタビュー。松井は「引き出しはまだあります」と不敵に笑った。それが4回に初解禁した“動く直球”だ。実体はシュート回転のツーシーム。捕手の宇川によれば「力を抜くための球。勝手に投げてきます」。春の練習試合で突然投げられ、面食らったという。「夏の連戦は抜きどころも必要。アイツなりに考えてたのかも」(宇川)。力投派のイメージを覆すクレバーな投球術を、徐々に見せ始めた。

 松井が先発した試合では、神奈川大会を通じて初めての先攻だった。この夏初めて、相手投手の後に立つ先発マウンド。少々リズムの違う展開だったが、鈴木拓がいきなりの先頭打者アーチをくれた。「あの1発で気楽に投げられました」。その鈴木拓が5回に好守備をした際、松井は「サンキュー拓夢!」と声をかけていた。先輩だから本来「拓夢さん」であるべきなのだが、タメ口も松井の度胸の良さだ。

 初の8強入りを決め、連投となる今日の準々決勝では、2季連続準Vの光星学院と対戦する。3、4番の田村、北條は全国屈指の強打者。「実力を試すいい機会。変化球がどこまで通じるか楽しみです」。数日前まで無名だった2年生左腕が起こす、とびきりの下克上。日本中が注目している。【鎌田良美】