<センバツ高校野球:済美4-1済々黌>◇30日◇3回戦

 道後の怪物が済美を9年ぶりの春8強に導いた。最速152キロの剛腕・安楽智大(あんらく・ともひろ)投手(2年)が投打で活躍。同点の8回に左中間を破る決勝2点適時三塁打を放てば、投げても159球の熱投で1失点に抑えた。史上初の3季連続甲子園優勝を狙った大阪桐蔭がこの日姿を消し、安楽が春の主役に躍り出た。

 激闘の緊張が解けると右手首がうずき出した。済美・安楽は試合後、「今になって痛みが少しあります。真っ赤になっている」と顔を曇らせた。

 打球を体に2度受けても、へこたれることはなかった。初回の打席で、右手首付近に打球を受けた。7回のマウンドで、今度は打球を自らの右足首で止めて、遊ゴロにする荒技で体を張った。「次の打者が(済々黌)大竹さんだったので走者を出したくなかった」と、体が自然に動いた。

 初戦の広陵戦で13回、232球を投げ抜き、想像以上に体の重さを感じたという。最速152キロを誇る剛腕が投じた初球は135キロ。「今日はスピードが出ない。コースを突こうと思った」と、球速は140キロ前後でも丁寧に低めを攻めた。5回までに4度得点圏に走者を背負ったが、最少失点で踏みとどまった。中3日の登板にも、痛みどころか疲れも見せず、6回以降は安打を1本も許さず、159球の熱投を見せた。

 4番打者の務めも果たした。同点の8回2死一、二塁。初球の外角直球を逆らわず左中間に運ぶ決勝2点適時三塁打。塁上では両手の拳を振り上げた。先制した直後の5回に追いつかれていただけに、「自分のバットでかえそうと思っていた」。2安打2打点。エースで4番の存在感を存分に発揮した。

 身体能力は阪神藤浪級だ。トレーナーを済美に派遣する株式会社アヴィススポーツ鈴木拓治社長(43)は、過去に藤浪を担当した経験がある。「肩と肘は藤浪君と同じくらい柔らかい。肩の可動域も広い。まだフォームも固まっていないので、あと5キロは出せる」と太鼓判を押した。

 この日の最速は3回にマークした149キロ。9回のマウンドに行く前に、上甲正典監督(65)から「最後は150キロを出せ」と指令を受けた。最後の打者を148キロで三振に仕留めた。大台こそ超えなかったが、底なしのスタミナを披露した。タフな体と強いハートを持つ16歳が、甲子園で成長している。【中牟田康】

 ▼済美・安楽がまたもピンチで踏ん張った。初戦の広陵戦では、延長10回の無死満塁を無得点に抑える場面があった。この日の済々黌戦では1、3回に走者を得点圏に背負った状況で、4番・安藤、5番・林をそれぞれ凡退させた。要所で崩れず、流れを渡さない。

 安楽がピンチでギアを入れているのは、走者得点圏被打率を見ても分かる。ここまで2試合、走者を得点圏に置いた場面で25人と対戦し、通算20打数2安打、被打率1割に抑えている。満塁では4打数無安打だ。無走者または走者一塁の状況では58打数15安打、打率2割5分9厘だから、厳しい場面ほどよく粘る。【織田健途】