<センバツ高校野球:済美6-3県岐阜商>◇1日◇準々決勝

 済美(愛媛)の怪物右腕、安楽智大投手(2年)が逆転した直後の9回に最速151キロをマークし、3試合連続完投を決めた。138球を投げ抜き、3試合で計529球の熱投。6-3で県岐阜商を破り、初出場初優勝した04年以来9年ぶり4強進出を決めた。これでベスト4が出そろい、2日に準決勝が行われる。

 最後の気力を振り絞ろうとした。9回2死二、三塁。もらったリードは3点あった。だがここで1本打たれたら試合の流れが県岐阜商に向かうことは、安楽にはわかっていた。

 打者・河村のカウントはフルカウント。「スライダーで逃げたい」。心をよぎった考えは、上甲正典監督(65)の形相で吹き飛んだ。「振りかぶれ~!」の絶叫で、監督は真っ向勝負を指示していた。バランスを崩すのは怖かった。セットから力の限り右腕を振った。河村を遊ゴロに仕留めた138球目は150キロを表示した。

 「明日がないくらいの気持ちで腕を振りました。自分のストレートで流れを呼び込みたかった」。この日の最速151キロは味方が逆転した直後。9回1死無走者での122球目だった。

 中盤までは147キロがやっと。2試合391球の疲労に加え県岐阜商対策で低めを狙うあまり、腕の振りは小さくなった。苦境で助けられたのは相手エース藤田のスローカーブ。「大阪桐蔭戦のビデオで見たとき、左打者に有効だった。スライダーだけなら的を絞られる。自分も使ってみようと思いました」。新しい組み立てで立ち向かった。

 2日前、3月30日の3回戦・済々黌(熊本)戦で打球を右手首と右足首に当てた。宿舎でジェル状の冷却シートを右手首に張り、腫れを抑える努力を続けた。道後小6年、道後中3年で成長痛、昨夏に腰痛を抱えたが身体は強い。負傷は深刻でも、蓄積もあった。

 連日松山市内のゴルフ場の勾配を走り、連日100球以上を投げ込み、ボートこぎと同じ動作の器具を使って下半身を鍛えてきた。この日6回1死一、三塁のピンチを連続空振り三振で切り抜け、剛球投手の安楽が目覚めた。バッテリーを組む金子のミットを4カ月で使い物にならなくした剛球が終盤によみがえった。

 かつて上甲監督に、ここ一番での直球勝負について「お前のストレートなら、それが出来る」と言われた。その言葉が誇りだ。決勝まで投げ抜けば自身初の3連投。「1番をつけている限りマウンドを守り抜く」と誓う。春は、安楽の甲子園になった。【堀まどか】