<高校野球神奈川大会:横浜3-2桐光学園>◇25日◇準々決勝◇横浜

 歓喜に沸く試合後の横浜ベンチ裏で、渡辺元智監督(68)が静かに口を開いた。「50年間、いろいろと勝負してきた中で、その中でも重圧が掛かったゲームでした。同じチームに3度負けるわけにいきませんから」。

 打倒松井。昨夏、今春と同じ相手に敗れた。インディアンス松坂を擁した98年に春夏連覇を果たした名門に、これ以上の負けは許されない。対策は2つ。渡辺監督は「速いボールは上からたたく。低めのスライダーは振らない」と言った。

 バッティングマシンを150キロ近くに設定し、マウンドより5メートルほど前に設置。スライダーはベースより前に立って落ち際を「打つ」練習と、ベースの後ろ側に立って、ギリギリまでワンバウンドを「見極める」練習を繰り返した。1点を追う4回無死、4番高浜祐仁内野手(2年)が外角高めに抜けたチェンジアップをバックスクリーン下にぶち当てた。DeNA吉田スカウト部長が「ブランコ並みの本塁打」とうなった1発。高浜は「真っすぐが前に比べると遅くなっている感じがした」と、直球対策が実った結果だった。

 ネット裏の参謀、小倉清一郎コーチ(69)は、松井が登板する試合は今春からほぼ全試合視察した。緻密な分析で、怪物が見せたわずかなクセも感じ取った。

 小倉コーチ

 セットに入った時、けん制する時は2・5秒ぐらい。ホームに投げる時は3・5秒から4秒ぐらいですね。

 走者がいる場合、投球動作に入って2・5秒が経過すれば、松井はホームに投げる確率が高い。横浜の走者はスタートが切ることができる。

 1点を追う7回に飛び出した2番浅間大基外野手(2年)の2ランは1死一塁から。一塁走者がリードを大きく取り、直球が来る確率を高めて、仕留めた。

 足でかき回し、数少ない甘い球を痛打する。渡辺監督は「松坂は『平成の怪物』と呼ばれましたけど、右、左の違いはありますが、それに匹敵する。彼がいたから私も気を入れて、充実した1年を過ごせた。松井君に感謝したいです」。最後は怪物に敬意を表して、勝利の弁を締めくくった。【前田祐輔】