<高校野球愛媛大会:済美3-2川之江>◇26日◇準決勝◇松山中央公園野球場

 狙って出した!

 済美(愛媛)の安楽智大投手(2年)が、自己最速を3キロ更新の157キロをマークし、夏の甲子園出場に王手をかけた。2点をリードされた6回、試合の流れを変えるため、狙って速球を投じて逆転勝ちを呼んだ。

 自ら設定した速度を超えてしまった。0-2とリードされた6回2死。安楽は考えた。「負けていたので、あそこは流れを呼ぶために155キロを狙いました」。川之江の4番大西達己(3年)へ外角低めいっぱいにうなる直球。球場の球速表示は「157」を出し、坊っちゃんスタジアムがどよめいた。3日前に出した自己最速を3キロアップ。「チームのために投げた球がベストボールになりました」という1球で、球場の空気を変えた。

 無得点に抑えられていた打線への力水となった。8回に1点を返し、土壇場の9回。女房役の金子昂平捕手(3年)が同点適時打。そして安楽と同学年の林幹也遊撃手の犠飛で勝ち越し点を奪った。その裏を安楽が抑えて1点差勝利。157キロが起点となった。

 今春センバツで、投手が試合の流れを変えられることを知った。「流れを呼び込むなら(1回に)3つ三振を取るか、ストレート」。最速球に打者は動けず見逃し三振。「157キロに(打者の)手が出なかった。あのコースに投げられたことで自信になった」。受けた金子も「手が痛かったです。今までのボールと違った。低めから上がってくるようなボールで、回転が見えなかった。今までで最高のボール。ピッチングで流れを持ってこれるんだからすごいですね」と感心した。

 5安打した川之江打線はストレートを狙ってきた。157キロを出しても金子は「これまでの安楽と僕ならストレートで押した。センバツの経験があってこそ」と力勝負にこだわらず、最後の打者はスライダーを4球投げて空振り三振を奪った。球速とともに、投球内容も進化させている。

 夏の戦いは厳しい。桐光学園の松井ら多くの注目選手が、甲子園にたどり着けずに敗退している。安楽にもこの日、2回1死後に雷雨のため64分間の中断、その直後に先制点を失点。打席でも3度敬遠と勝負してもらえず。数々の試練が与えられたが、それを乗り越えた安楽が、聖地に王手をかけた。【宮崎えり子】

 ◆安楽の球速推移

 今春の選抜大会2回戦の広陵戦で152キロをマーク。甲子園での2年生最速記録となった。7月17日の愛媛大会初戦、帝京五戦の67球目に153キロを記録した。「次は154キロを目指したい」と公言。6日後の23日、準々決勝の今治工戦では、38球目に自己最速を154キロに更新し、この日は一気に3キロアップの157キロ。

 ◆高校生の球速メモ

 80年以降、甲子園では寺原隼人(日南学園、現ソフトバンク)が01年夏に出した158キロ(ブレーブススカウトが計測)が最速。2年生では安楽が今春の広陵戦で記録した152キロが、田中将大(駒大苫小牧、現楽天)と大谷翔平(花巻東、現日本ハム)の150キロを抜きトップ。甲子園以外では、昨夏岩手大会準決勝で大谷が160キロ。佐藤由規(仙台育英、現ヤクルト)は07年9月の日米親善大会で157キロを記録。