<高校野球広島大会:瀬戸内1-0新庄>◇30日◇決勝◇しまなみ球場

 歴史的な決勝に終止符が打たれた。28日に0-0で延長15回引き分け再試合となっていた決勝が行われた。再び投手戦となり、瀬戸内・山岡泰輔投手(3年)が完封し、13年ぶり甲子園を決めた。プロ注目の左腕新庄・田口麗人(かずと)投手(3年)は、2試合計299球の熱投を見せたが力尽きた。

 山岡はずっと、投げ続けていたかった。8回1死二塁、大町の右前適時打で、ついにスコアボードに「0」以外の数字が刻まれた。1試合目から23イニング目で、両チームで初得点。甲子園が一気に近づいた瞬間だった。喜びが爆発してもおかしくないところ。もちろん、うれしくないはずがない。だが、「うれしかったけど、ちょっと残念だった。ずっと投げ続けていたい。どうせなら、もう1回再試合でもいいかなと思った」と複雑な気持ちに襲われていた。最速144キロをマークし、5安打無失点の完璧な投球だ。2試合で合計293球を投げたが、満たされることはなかった。

 試合前。遠投をしていると、新庄・田口が近づいてきた。山岡が「15回って短くなかった?」と聞くと、田口も「そうやな」と笑った。「どっちが勝っても悔いがないから、俺は泣かない」という田口と同じ思いだった。歴史的な一戦を投げ合った2人は、思いを共有していた。

 身長172センチ。決して大きくない。だが、入学当時は158センチ、56キロ。きゃしゃな体で、野球部の門をたたいた。「体が貧弱で、ここまでなるとは思っていなかった」と小川成海監督(63)は振り返る。能力にほれ込んでくれた同監督の家に住み込み、24時間態勢で指導を受けた。体を大きくするために、小川監督が手料理を振る舞ってくれた。深夜3時ごろに何度も台所から音がするのを聞いたことがある。前日29日の夜は、大好物の鶏肉、ゴボウ、ニンジンが入った炊き込みご飯が食卓に並んだ。「好きだからつくってくれたんです。ビックリしました」と感激した。

 恩返しの思いは、マウンドからあふれ出ていた。感謝、ライバルとの友情を胸に鉄腕が死闘を勝ち抜いた。【鎌田真一郎】

 ◆瀬戸内

 1901年(明34)創立の私立校。生徒数1137人(女子396人)。野球部は1919年創部。部員数78人。甲子園出場は春2度、夏は13年ぶり2度目。主なOBはプロゴルファーの田中秀道、谷原秀人ら。所在地は広島市東区尾長西2の12の1。神垣憲雄校長。◆Vへの足跡◆

 

 2回戦5-1崇徳3回戦6-0吉田4回戦11-1呉工準々決勝3-2広陵準決勝3-2広島工決勝0-0新庄決勝再試合1-0新庄