<全国高校野球選手権:前橋育英1-0樟南>◇16日◇2回戦

 樟南(鹿児島)の「山P」の夏が終わった。エース山下敦大投手(3年)は、5回に適時失策で1点を失ったが、味方の反撃を信じ9回1死で降板するまで追加点を許さなかった。中学時代からバッテリーを組む緒方壮助捕手(3年)と、あうんの呼吸で甲子園2試合、17回1/3を自責0。2人で福岡から鹿児島へ進学、たどり着いた夢舞台で完全燃焼した。

 2つの「まさか」で樟南が姿を消した。5回2死三塁から、二塁手の島田が痛恨の適時トンネル。「強い打球だった。目の前でバウンドが跳ねたので、グラブも上げたら思ったよりも跳ねなくて」。県大会から失策0の男が公式戦初のトンネルをした。

 5回1死一、三塁のチャンスでは1番池田がスクイズ失敗。「まさかあんなに三塁手が前に来るとは。最後にミスが出て悔しい」。12日の佐世保実戦で決勝のスクイズを決めた、練習試合も含め成功率100%男が高校で初めてバントを失敗した。

 それでもエース山下は表情を変えず凡打を重ね、1失点で辛抱した。「悔いのない投球ができました」。初戦で完封した時よりキレも制球力もあった。9回、マウンドに捕手の緒方が来た。次の打者で交代という場面。緒方は「最後だから打たれても負けてもいい。2人で一番いい球を」と言い残し本塁へ戻った。中学時代、福岡ニュースターズ(現中央ボーイズ)からバッテリーを組んで6年目。最後の球は131キロ外角直球、左飛に打ち取った。

 この日までの3日間、緒方は1人食堂に残り、前橋育英打線の映像を何度も見た。その成果で散発の3安打しか許さなかった。

 山下は「緒方と一緒に樟南に来て、甲子園で一つ勝つことができた」とスッキリした表情。緒方も「二人三脚でできてうれしかった。こいつじゃないとダメだと樟南に誘いました。6年間は幸せでした」と充実感に満ちていた。

 山下は進学、緒方は未定だが、コンビ解消だけは決まっている。山下は「次はどこか違う世界で対戦したい」、緒方は「さみしくない。ここが2人のゴール」と笑った。夢をかなえた2人の顔に涙はなかった。【石橋隆雄】