<IBAF18UW杯:日本4-1台湾>◇1日◇予選1次ラウンド◇台湾・インターコンチネンタル

 甲子園で1試合22奪三振の記録を持つ「怪物」が平常心の世界デビューを飾った。高校日本代表が、1次ラウンド初戦の台湾戦を勝利。雨で2日登板が延びた桐光学園(神奈川)・松井裕樹投手(3年)は8回を3安打8四死球と苦しみながら1失点。最速147キロの直球とスライダーで159球、12奪三振の粘投を見せた。3851人の敵地ファンが集まる完全アウェーの中、大阪桐蔭・森友哉主将(3年)とのバッテリーで勝利をつかんだ。

 異様な雰囲気にも、松井は動じることはなかった。「加油!

 加油!(頑張れ、頑張れ)」。耳をつんざく台湾一色の応援がこだまする。4-1で迎えた8回2死満塁。ボールとコールされるたびに「ウォー」と球場が揺れるほどの歓声。スタンドで打ち鳴らされるメガホンの音が大きくなる。それでも落ち着いていた。「2年生の時に横浜スタジアムで横浜高校とやった時の応援に比べたら、落ち着いてやれました」と事もなげに振り返った。

 完全アウェーの中で全球直球勝負を挑んだ。バッテリーを組む森友と「勝負に行くぞ」と覚悟を決めた。それでも「気持ちが入り過ぎた」といきなり3ボールにしてしまう。コントロールが少しでも狂えば押し出ししてしまう状況で、内角へ力いっぱい腕を振った。1球だけファウルされ、フルカウントに追い込んでからの7球目。内角低めへの直球で空振りの三振を奪うと「よっしゃあ!」と叫びながらベンチへ走った。

 初めての国際試合で洗礼を浴び続けた。8月30日のカナダ戦で登板が予定されていたが、雨で中止。前日31日も雨となり「やばいっす。試合がしたいです」と気持ちは切れそうだった。雨天中止で満足に体を動かすこともできず、ホテルの食事にも苦しんだ。野菜嫌いのため、主食はチキンナゲットとチャーハン、焼きそば。「食べられるものが全然ないんです…」と日常生活でも頭を悩ませた。

 試合開始直後、球審からロジンバッグの使い方で注意を受けた。触った後に、ズボンをこするように触った行為に対してだった。ファンの「圧力」にも戸惑った。6回1死一、二塁。4番楊に甘く入った直球を左翼ポールへ運ばれた。打たれた瞬間に「ヤバイ」と思ったというほどの大飛球だったが、判定はファウル。胸をなで下ろしたが、「ホームラン!」の大合唱。映像で確認すると完全なファウルの当たりだが、審判が審議をしたため「ひっくり返されそうだったので、ウソだろ!?

 と思いました」と精神的に揺さぶられた。

 それでもゲン担ぎが勝利を引き寄せた。先発登板の時の儀式がある。ブルペンで投げ込む球数を18球と決めている。2年春の練習試合で18球を投げ、抑えられたことから続けているゲン担ぎだ。この日も「しっかり18球投げました。でもちょっと危なかったです」と、普段と変わらないルーティンワークが勝利の一因だと笑った。

 人生初の国際試合でもあわてず、騒がず、つかんだ勝利。あらためて目標を聞かれ「優勝です」と意気込む男が、世界一の左腕になる戦いの火ぶたを切った。【島根純】

 ◆IBAF18Uワールドカップ

 IBAF(国際野球連盟)が主催する18歳以下の選手による大会。今年、「18U世界選手権」から名称変更。今大会で26度目の開催、日本は5度目の出場となる。最高成績は第2回大会と21回大会の準優勝で、阪神藤浪や日本ハム大谷を擁した昨年は6位。昨年は米国が95年以来6度目の優勝を飾った。