最後の夏に、夢のプロ入りを懸ける選手がいる。高校野球特集第3回は、日刊スポーツ記者がお勧めする全国の有望選手にスポットを当てる「ピカイチ打者編」。高崎健康福祉大高崎(群馬)の「上州のゴジラ」、脇本直人外野手(3年)は、高校通算54本塁打を誇るスラッガー。全国区の活躍はないが、ドラフト指名を夢見て、進路をプロに絞って勝負する。

 「上州のゴジラ」は万感の思いで最後の夏を迎える。高崎健康福祉大高崎の脇本は6月29日に行われた本庄第一(埼玉)との練習試合で、左翼への満塁弾を含む5打数3安打6打点。高校通算54本塁打とし、元ヤンキース松井秀喜氏(40)が星稜時代に積み上げた60発超えも視界に入れた。ドジャースなど日米8球団が注目するスラッガーの口癖は、「プロに入って、おじいちゃんとおばあちゃんに楽をさせてあげたい」。祖父母への恩返しに、進路はプロに固まっている。

 6人きょうだいの5番目。脇本が3歳の時、両親が離婚した。祖父・桂太郎さん(76)と祖母・淑子さん(72)に引き取られた。現在は寮生活で祖父母の元に帰るのは年末だけだが「2人を甲子園に連れて行きプロに行くことが、自分にできる恩返し」という一心でバットを振り、冬は1日2000スイングを数えた。

 葛原美峰(よしたか)コーチ(58)が「バットに当たった瞬間に消える」と表現する打球は、逆方向でもスタンドインする。昨夏の練習試合では推定140メートルの特大弾。握力91キロの腕っぷしとスクワットで160キロを上げる下半身が、規格外のパワーを生む。また、遠投は110メートル、50メートル走も6秒1。あこがれのオリックス糸井のように、走攻守にセンスが光る。

 昨夏の全国V投手、前橋育英のエース高橋光成(3年)は幼なじみ。同じ沼田市出身で互いの家に泊まり合った仲で、中3時には地元選抜チームの2枚看板として関東大会を制覇した。まだ公式戦での対戦はないが、くじのいたずらで、今夏は勝ち進めば3回戦で早くも激突。それでも脇本は「打つ自信はあります」と言い切った。

 週末は朝4時からの弁当作りが日課だった淑子さんは孫の成長と愛情に目を細める。「節目の時には『いつもありがとう』という手紙が届きます。試合でホームランを2本打った時には、わざわざホームランボールを持ち帰って私と主人に渡してくれました。本当にやさしい子なんです」。両目には、うっすら光るものがあった。「2人とも甲子園に連れて行くから待ってて、と言われました」と淑子さん。大きな決意で臨む主砲が、夏の空に大アーチをかける。【群馬・栃木担当

 岡崎悠利】

 ◆脇本直人(わきもと・なおと)1996年(平8)5月13日生まれ。群馬・沼田市出身。小3から野球を始める。投手として沼田中で県8強、Kボール野球で沼田市選抜に入り関東大会優勝。178センチ、80キロ。右投げ左打ち。6人きょうだいの5番目。兄と姉が2人、妹が1人。