<高校野球神奈川大会:横浜8-3湘南>◇23日◇4回戦◇保土ケ谷・神奈川新聞スタジアム

 神奈川の名門・横浜のエースナンバー「1」を背負う伊藤将司投手(3年)が、桐光学園2年夏の甲子園で松井裕樹(楽天)が記録した10者連続三振に並んだ。湘南戦の5回2死、同点2ランを浴びた先発、春日井静斗投手(2年)の救援として登板。この回を三振で片付けると、6回から8回まで全打者を三振に抑える10者連続をマーク。今春のセンバツと関東大会でスランプに陥っていたが、復活を印象付ける快投だった。

 これが伊藤のアウトコースだ!

 コーナーいっぱいを直球で攻めた。同点にされた5回2死。2番淵脇を4球で空振り三振に仕留め、湘南に傾きかけた流れを食い止めた。6回こそ3人に1球ずつをファウルにされたが、7回はファウルも許さない。打者の左右に関係なく、外角直球で仕留め続けた。8回2死、淵脇にはカウント2-2からのツーシームで空振り三振。43球で10者連続三振を達成した。

 9回、11連続を狙いつつ、先頭の3番岩崎に中前打を喫した。頭上を通る打球を見上げ、笑みがこぼれた。胸に浮かんだ色気を戒め、後続は三振と併殺。13アウトを13人で終わらせた。

 「真っすぐが去年の夏と同じくらいに戻ってきた。9回も三振を狙ったんですが、悔しいですね。でも、チームが勝って良かった。僕がしっかり抑えれば、浅間や高浜が打ってくれる。2年生の春日井がここまでよく頑張ってくれていたので、3年生の意地を見せたかった」。エースの目には、獲物を追う野獣のような、ギラギラした光が宿っていた。「この調子を、決勝まで継続したい」。自信を失って、うつろな目をした伊藤は、もういない。

 激しいトラウマとの戦いだった。優勝候補と呼ばれた今春センバツは、八戸学院光星(青森)に初戦負け。先発、救援と3度マウンドに立ち、計4回7失点。5月、地元神奈川で開催された関東大会では、霞ケ浦(茨城)にコールド負け。春秋通算44回出場する横浜にとって、初の屈辱。伊藤は、6回0/3、9四死球だった。悪夢から立ち直るのには、時間と練習が必要だった。

 「初めてですよ。10でしょ?」。名将・渡辺元智監督(69)も初体験と驚く三振ラッシュ。同監督は「自信になったんじゃないですか」とも言って、目尻を下げた。「平均台を寮に持ち込み、毎日その上でシャドーピッチングです。バランスの練習をしましたね。それに、体の左右にネットを立て、挟まれながらシャドーピッチングをしました」。日々の努力を知っているから、復活の喜びはひとしおだ。練習の成果が、外角ギリギリの制球と、目いっぱいの腕の振りだった。

 立ち止まれない事情がある。渡辺監督とともに常勝軍団を築いた小倉清一郎コーチ(70)が今夏限りで勇退する。伊藤は言った。「小倉コーチの最後。いい結果を残したい」。エースのアウトコースが、恩師に有終の美をもたらすはずだ。【金子航】

 ◆伊藤将司(いとう・まさし)1996年(平8)5月8日、千葉県生まれ。横芝フェニックスで野球を始める。横芝中では軟式野球部に所属し県選抜に選ばれた。横浜では2年春からエースとして活躍し、同夏の甲子園では初戦(対丸亀)で14三振を奪い完投勝利を収めた。50メートルは6秒4。遠投112メートル。家族は両親と弟、妹。177センチ、73キロ。左投げ左打ち。