<高校野球愛媛大会:東温4-1済美>◇24日◇3回戦◇松山中央公園

 怪物の夏が終わった。愛媛大会で、今秋ドラフトの目玉、安楽智大投手(3年)を擁する済美が東温に1-4で敗退。安楽は今夏最速148キロをマークし、今夏最多11三振を奪うも痛恨の4失点。打線は3点差を追いつけなかった。夏の全国制覇、高校生での160キロ、ドラフト1位でのプロ入りを上甲正典監督(67)と約束し、右肘故障から復活したが、果たせず。この日も5球団7人のスカウトが視察し「安楽ドラフト」となる可能性が高い秋の主役は「力不足。申し訳ない」と号泣した。

 188センチの体を2つに折った。「すみませんでした!」。上甲監督に頭を下げた。敗戦直後のミーティング後も、エースは顔を上げられなかった。「肘が本調子やないのに、よう頑張った」と恩師に頭をなでられ「力不足。申し訳ないです」。17歳の怪物は泣いた。

 初回から147キロをマークし、3回まで完全投球。だが5回、先頭打者に打たれた二塁打から甲子園へのシナリオは暗転した。次打者に犠打を決められ、1死三塁。続く八木泰樹内野手(2年)は初球の144キロを投前に転がした。「初球からスクイズが来るとは思わなかった。それならスライダーを投げるよう指示したものを…」。百戦錬磨の上甲監督が悔やんだ今夏初失点。だが安楽の闘争心に火が付いた。

 6回から振りかぶった。だが四球から2死三塁のピンチを招き、青野凌太内野手(同)に今夏最速148キロを左前に運ばれた。9回に痛恨の2失点。4番としても2打数無安打。9回は死球で出塁も、三塁上でゲームセットを迎えた。

 昨秋から右肘の痛みに苦しんだ。年末最後の練習は素振りも左腕1本だった。正月の父晃一さん(53)とのキャッチボールも2球で取りやめ。父は気が気でなかった。それでも上甲監督との男の約束を果たしたい一心で、肘の不安を克服した。完投、連投と段階を踏み、愛媛大会に備えた。開幕を控えた練習は「戦う姿勢でやれ!」と仲間を鼓舞し、自分をも励ました。

 進路は「まだ何も」と口をつぐんだ。夏にかけていた。阪神、巨人などが1位候補に挙げる逸材で、10月は「安楽の秋」になる。ただ8月は、安楽のいない夏になる。【堀まどか】