高校野球の強豪校現役監督が逮捕されるという前代未聞の事態が起きた。愛知・豊田大谷高校の野球部監督川上貴史(たかし)容疑者(33=同県日進市)が7月31日、傷害の疑いで愛知県警豊田署に逮捕された。逮捕容疑は昨年7月、練習中に当時1年の男子部員の頭と頬を殴った上、肋骨(ろっこつ)を折る重傷を負わせた疑い。同容疑者は同校OBで98年夏の甲子園ベスト4の主力選手。日本高校野球連盟(高野連)によると、学校側から連盟に報告もなく監督が逮捕されるのは過去に例がないという。

 川上容疑者の逮捕容疑は昨年7月19日、愛知県豊田市の同校で練習中、当時1年だった男子部員が疲れて座り込んだことを注意した際、頭と頬を殴った上、脇腹や脚を蹴り、肋骨を折る重傷を負わせた疑い。同校は1997年と98年夏に甲子園に出場し、今夏は7月27日に愛知県大会4回戦で敗退したばかりだった。

 同署などによると、川上容疑者は「反抗的な態度を取られたため腹を立て、たたいたが、蹴ってけがを負わせてはいない」と容疑を否認したという。

 男子部員は昨年12月に退部し、その後転校。その保護者から今年2月、相談を受けた県私学振興室が学校に連絡したが、学校は「部員は(7月以降の対外試合に)10回も出ている。体罰の事実はない」と全面否定したという。男子部員が3月に豊田署へ被害を届け、調査が続けられていた。

 182センチの川上容疑者は同校OBで3年時の98年夏に甲子園に出場し、ベスト4に進んだ。リーダー的存在で、横浜(現DeNA)入りした古木克明が3番三塁、同学年の川上容疑者は5番一塁だった。横浜松坂大輔(現メッツ)が、決勝でノーヒットノーランを達成して優勝した歴史に残る大会だった。

 川上容疑者は朝日大(岐阜県瑞穂市)に進学後も活躍。その後は一時、野球を離れ、関係者によると「政治活動を行う人物の秘書、運転手として見習いをしていた」という。89年創部の母校は甲子園出場後に低迷し、コーチを歴任した川上容疑者が、復活の切り札として12年8月に監督に就任していた。

 日本高野連の竹中雅彦事務局長は「高野連に報告があった後に逮捕、起訴ということは過去にもあったが、逮捕されたという報道で暴力事件を知ったのは初めて。前代未聞で記憶にない」とコメント。愛知県高野連によると、川上容疑者と男子部員の問題は把握していたが、暴力とは認識していなかったという。そのため日本高野連には報告されなかったようだ。

 同校の加藤順一校長らは31日夜に記者会見した。学校は他の部員が暴行を見ていなかったと説明。事実確認をする過程では、男子部員から聞き取り調査をせず、川上容疑者の主張を一方的に信用する形となった。「(調査が)終わったという判断は甘かったかもしれない」と謝罪した。野球部は当面、練習を自粛して部員は自宅待機するという。

 ◆私立豊田大谷高校

 1984年(昭59)名古屋大谷高豊田分校として設立。88年に豊田大谷高に名称変更。浄土真宗の一宗派である真宗大谷派の学校法人尾張学園が運営。校訓は「命尊し」。野球部は夏の甲子園に2回出場(97、98年)。女子ソフトテニス部も全国総体の常連。普通科と商業科に生徒数約1400人(男女共学)。所在地は愛知県豊田市保見町南山1。

 ▼高校野球部で不祥事が起きた場合の流れ

 通常は指導者による暴力や、生徒の喫煙、飲酒など不祥事が起きた場合、速やかに各都道府県高野連に報告することが義務付けられている。その後、日本高野連の審議委員会を経て、日本学生野球協会の審査室会議に上申される。処分はすべて審査室会議で決定し、公表される。事件を隠蔽(いんぺい)しようとして、報告遅れで発覚した場合は、通常より謹慎期間が長くなるなど、重い処分が課される。

 ▼今年の高校野球指導者に対する主な処分

 1月の審査室会議では、複数部員に対する暴力と報告遅れで、沖縄と千葉の監督がそれぞれ1年間の謹慎処分。4月は、保護者会から支給された補助費40万円を横領した沖縄の元監督が2年間の謹慎、部内暴力を行った京都の部長兼監督が1年間の謹慎になった。5月は、茨城のコーチが入学前の新1年生に対する暴力で3カ月、練習試合中のベンチでパイプ椅子を投げつけた千葉の監督が、4カ月の謹慎処分を受けた。