<センバツ高校野球:清峰1-0花巻東>◇2日◇決勝

 清峰(長崎)のエース今村猛投手(3年)が、1-0の完封で春夏を通じて、長崎県に初優勝をもたらした。7安打5奪三振で、花巻東(岩手)の左腕、菊池雄星投手(3年)とのドラフト1位候補対決を制した。決勝の1-0完封は84年の岩倉(東京)山口重幸投手以来25年ぶり。今大会5試合計44イニングを1失点に抑えた。

 無表情だった顔に、一瞬にして笑顔が広がった。9回裏2死一、二塁のピンチ。今村が投じたスライダーは、ウイニングボールとなってレフトへ運ばれる。左翼手の辻が打球をがっちりつかむと思い切り両手を突き上げた。「やっと終わったと思った。最後はガッツポーズをしようと思ってたので、できてよかった」と笑った。マウンドでの大人びた表情は消えていた。

 プロが注目する大会NO・1の右腕と左腕の投げ合い。雄たけびをあげ、感情をむき出しに力投する菊池とは、対照的だった。ピンチを背負っても、ピンチを切り抜けても、表情ひとつ変えない。「腕が振れてなかったし、球威もなかった」と淡々と投げ続けた。連投の疲れは隠せずに5四死球。しかし、終盤でも140キロ台の速球を投げ込む底力で踏ん張った。「1点差はきつかったです」と言うほどの苦しさも、マウンドでは見せなかった。

 表面上はクールでも、心の中は熱かった。投げ抜いた627球には、仲間への思いがこもっていた。捕手の川本は中学まで地元で1、2を争う投手だった。高校入学後、吉田監督の要請を3度も断ったが、今村の球を受ける女房役となった。ベンチ外の控え投手の草野元蔵(3年)は昨秋、九州大会のときに自ら申し出て、宿舎で毎日、マッサージやストレッチで今村の体をケアした。前夜は草野から「優勝してよ」と夢を託された。今村の好きな言葉は「信」。「何を信じて投げたか」と聞かれ、「仲間」と即答した。

 試合後、甲子園の砂をかき集める「仲間」の様子を今村は、ベンチからただ眺めていた。長崎に初の栄冠をもたらしたが、高校最後の夏が待つ。「夏までにもっと成長して帰ってきます」ときっぱり言った。凜(りん)とした視線は、もう次を見据えていた。【前田泰子】