<センバツ高校野球:興南10-5日大三>◇3日◇決勝

 日大三(東京)・山崎福也(さちや)投手(3年)は166球11回1/3を投げて11安打7失点(自責5)で降板し、39年ぶりの優勝を逃した。

 つかみかけた白星を逃すかのように、山崎のグラブから白球がこぼれ落ちた。延長12回1死、一塁ゴロでベースカバーに入ったが、ベースを踏んだ瞬間にボールを落とした。5番銘苅を暴投でカウント0-2としたところで吉沢にマウンドを譲った。満塁から三塁手の横尾が本塁に悪送球するなど、決定的な5失点。「自分のエラーで負けちゃったかなと思います」と責任を背負い込んだ。

 逆転された直後の6回には2点を奪い追いついた。興南応援団による指笛が響く甲子園で強打を見せたが、延長12回の2失策が失点につながった。1死二塁カウント0-2からの投手交代は「吉沢の速いボールに期待した。あそこで点を取られたら、島袋君から取り返せない」(小倉監督)と勝負の一手だった。

 166球を投げた山崎に涙はなかった。3回に左前打を放ち、大会タイの通算13安打とした。「決勝の雰囲気を味わえて、想像よりお客さんがいて、いい経験ができた」と前を向く。2年前の3月21日は手術台にいた。脳腫瘍(しゅよう)を患い、野球どころか命の危険があった。名医を探し、北海道で4・2センチの腫瘍を除去した。麻酔から覚めると、テレビ画面にセンバツ開会式が映った。動かないはずの足で、立ち上がっていた。

 2年後、決勝のマウンドに立った。「今苦しんでいる人が、自分のピッチングを見て勇気を感じてくれたらうれしい」と願った。39年ぶりの優勝は逃したが、胸を張って東京に戻る。【前田祐輔】