お笑いブームがついに高校野球界にやってきた。今年4月に岩戸と久里浜が統合して誕生した横須賀明光(南神奈川)に、元吉本のお笑い芸人、田沼宏友監督(28)が就任した。芸人時代は漫才コンビ「こふきいも」として活動。ユニークなトレーニングと明るい人柄がチームワークの秘訣(ひけつ)だ。「笑い」と「野球」を融合させ甲子園を目指す。

 そこには、芸人時代と同じ顔で笑う田沼監督の姿があった。はつらつとした表情の選手たちは「青春ダッシュ」を終えたばかり。ムードメーカー紀伊隼投手(3年)が「これが横須賀明光じゃーい!」とほえたのを合図に、「大好きだーっ」と、夕日を背に好きな子の名前を叫んでグラウンドを駆け抜けた。これも同監督ならではの体力づくりのトレーニングだ。

 教員と芸人の、2つの夢があった。しかし「両方やるなら芸人が先」と大学卒業後、吉本興業のタレント養成所に入った。同期にはハリセンボンや出雲阿国などがいる。06年に監督就任の話がでると「芸人をあきらめることへの迷いはあったが、二足のわらじではやっていけない」と決意。吉本を辞めるとき、同期からサインバットが贈られた。「めざせ甲子園!」の文字と、たくさんのメッセージ。中には、既に売れて多忙だったハリセンボンのものもあった。監督は「一生の宝物」と、昨夏に続き今年も大会中ベンチに飾る。

 高校球児だった監督自身の最後の夏は、2回戦で松坂(レッドソックス)と俳優上地雄輔(29)の横浜バッテリーに打ち取られて終わった。実は上地とは長年のライバルだ。小、中学校の同級生。互いにガキ大将同士だが、けんかも野球の実力もかなわなかった。小学校時代、バットを逆さまに持った上地に、全力投球を場外アーチされた苦い?

 思い出も。「自分の前にはいつも上地がいた」。芸人をあきらめたのと同時に上地が売れ出し「『羞恥心』を見ると悔しい」と笑いながら話す。「上地は甲子園でプレーしていない。だからチームの甲子園出場が唯一のチャンス」と、「打倒!上地」への執念をひそかに燃やしている。舞台で学んだお笑いのツボ。しかしグラウンドに笑いは、持ち込まない。