<全国高校野球選手権:中京大中京10-9日本文理>◇24日◇決勝

 新潟県勢初の決勝進出を果たした日本文理は今大会5試合連続の2ケタ安打をマーク。初優勝はならなかったが、驚異的な粘りで4万7000人の観衆を沸かせた。

 奇跡の予感が漂う2死一、三塁、日本文理の8番若林尚希(3年)がジャストミートした打球が、三塁手のグラブに収まった。抜ければ同点、逆転だったが…。ひざから崩れ落ち、仲間に抱きかかえられた。県勢初優勝の夢までわずか1点、届かなかった。

 6点を9回2死走者なし。切手がカウント2-2と追い込まれながらも四球を選び、猛反撃が始まった。甲子園の銀傘に「伊藤コール」が鳴り響く。2点を返し、なお満塁。ネット裏の観衆は立ち上がり、アルプスと一体になって叫んだ。「球場全体が僕の名前を呼んでくれて。すごい雰囲気だった」と身震いした。3球目を左前にはじき返し、2点を返す。続く代打石塚も左前打で続き、1点差まで追い上げたが、そこまでだった。三塁ベース上で試合終了を迎えた伊藤は「これで終わったんだ。負けたけれど最高のゲームで終われて幸せ」と涙はなかった。

 大井道夫監督(67)は笑顔で選手を迎えた。中京大中京は9回から堂林を再登板させた。「向こうも温情で使ったんだろうけど、野球は甘くないな。2死からだもん。たまげた。うちの選手たちは大したもの」と大反撃をたたえた。

 打ち勝つ野球は大井監督の夢だった。59年夏、宇都宮工(栃木)のエースとして準優勝した。延長15回に西条(愛媛)に6失点して敗れた。「どこかで1点取っていれば」というのが指導者の原点。点を取らないと甲子園では勝てない。打撃練習に没頭した。昨秋の大会直前、秀子夫人(享年58)を病気で亡くした。日本文理にとって、今大会初戦(藤井学園寒川)が97年の初出場以来、夏の初勝利だった。選手たちはウイニングボールを監督に手渡した。「仏壇に飾ってください」の言葉がうれしかった。

 新潟県勢として初めて準決勝に勝ち上がり、決勝にも進出したナインは4万7000人の観衆から大きな拍手を浴びた。この日、新潟市では秋季新潟地区大会の抽選会が行われた。長い夏が終わり、秋が始まる。【前田祐輔】