7日開幕の第92回全国高校野球選手権に出場する能代商(秋田)が2日、甲子園練習を行った。元阪急投手・山田久志氏(62=日刊スポーツ評論家)と親せき関係にある能代商の山田一貴(かずき)右翼手(2年)も初めての聖地に立ち、守備や打撃練習で汗を流した。元プロ野球選手の山田氏も出場できなかった、あこがれの舞台で、秋田県勢として13年ぶりの勝利を誓った。

 能代商の山田は緊張した面持ちで甲子園の土を踏んだ。ノックでは浜風に流される打球に右往左往。打撃練習では平凡な飛球ばかり。「体が動いてませんでした」。下手投げのサブマリン投法で通算284勝を挙げた山田久志氏とDNAがつながる山田も、初めの大舞台にのまれていた。

 祖父久信さん(78)と山田氏がいとこ同士。「偉大な投手の親せき」であることは幼少期から知っていた。9歳からプロにあこがれて野球を始めた。昨年5月、地元・能代市に帰省していた山田氏と対面。「もっと食べて太くなれ」と、すしをごちそうになった。球界で長く活躍した投手からの言葉を守り、1年間で62キロから10キロ増量。打球の鋭さも増した。補欠から5番打者へ成長した今夏は、秋田大会で打率3割6分4厘をマークした。

 能代南中3年時には投手に挑戦したこともある。上手投げだった。結果は散々で、制球が定まらず四球ばかり。当時の監督に「もうやめとけ」と諭され、すぐに断念した。

 それでも山田氏のサインを支えにした。「栄光に近道なし」と書かれた色紙を自分の部屋に飾っている。久信さんから聞いた「(山田)久志は高校時代は無名だったけど、社会人(新日鉄釜石)に進んでも頑張ってプロに行った」という話を聞き、自分に出来る地道な努力を続けた。捕手や打者の構えを見ながら守備位置を変えるなど、細かい部分にも気を配って野手として花開いた。

 大投手でも出場できなかった甲子園は、両親を亡くした山田を育ててくれた祖父母への恩返しの舞台でもある。「まず1勝から」。県勢13年ぶりの白星へ、山田は初戦を心待ちにしている。【湯浅知彦】