ニッカンの名物連載「伝説」が本に！ 山本和範編

85年の近鉄戦で満塁本塁打を放つ山本和範（カズ山本）

　第二章 熱い男たちのトリを飾ったカズ山本は近鉄入団→戦力外、南海入団→戦力外→近鉄で引退とパ・リーグで数奇な運命を辿った。 藤村富美男、村山実、山田久志、広瀬叔功、門田博光と球史に名を残す名選手と共に取り上げた。実績では他の５人に劣るが、本書の編集チームの中から「２度も解雇の憂き目に遭いながら不死鳥の如く甦った姿は読者の共感を呼ぶに違いない。ぜひ取り上げたい」との意見が出て、ピックアップされた。

　筆者の浦田は三池高―熊本大―西部日刊スポーツと生粋の九州人。高校時代は後に近鉄で活躍した大牟田高の村上隆行とも対戦している。高校球界で三池と言えば１９６５年（昭４０）の三池工の夏全国制覇が有名。監督は現巨人原監督の父・原貢氏。エースは後に南海、阪神などで活躍した上田卓三。浦田がホークスを担当した時に球団の広報担当だった。

　浦田　全国制覇は僕が生まれる前の年。実際の活躍は知らないんですが、高校時代は隣の三池工とは何度も試合をしましたし、全国制覇した学校だといううらやましさはありました。

　その憧れの上田さんと身近で接し、同じ福岡県下の戸畑商のエースだった山本和範にも親しみを抱いた。

　９１年から４年間、ホークスを担当。山本和範からカズ山本に登録名を変更し、２億円プレーヤーに上り詰める姿をネット裏から見続けた。１番松永、２番山本、３番トラックスラー、４番秋山、５番ライマー、６番吉永の強力打線が印象に残っている。

　中堅からベテランとなり、リーダー格としてオフも過ごすようになった。自主トレには吉田豊、阪神から移籍の大野らと宮古島へ行き、水泳、自転車、陸上の３競技を採り入れ、トライアスロン・トレーニングと称していたのを取材した。取材陣の中で若手だった浦田もカズ山本の声援を受けて砂浜を走ったのを覚えている。

　自主トレ、キャンプで山本の非凡さに驚いたのは「同じ事を繰り返す根気と集中力ですね。反復練習は並ではない。同時に野球に取り組む真摯な姿勢も忘れられない」。

　日刊スポーツでは名古屋以西地域で１０年４月２０日から２週間に渡って掲載された。浦田は一般スポーツや芸能社会を扱う報道グループのデスクとして大阪に単身赴任している。北九州在住の山本を取材するために年明けから２、３度北九州へ赴いた。新幹線の小倉駅周辺で昼食を取りながら話を聞くのが取材パターン。現役時代なら「あっホークスの山本だ」とサインをねだるファンに囲まれる所だが、静かな雰囲気の中でじっくり話を聞けたのが印象に残っているそうだ。

　近鉄解雇後、バッティングセンターで働き、後の南海入団へ繋いだ話は有名だが、実は働いていたわけではない。籍を置いて、自由にマシンで打撃練習をさせてもらっていただけだったそうだ。また本書でも書いているが、一番印象に残っているのが落第の勧め。高校時代に留年して自分を見つめ直す機会を得たという。苦労人山本の原点はそこにあるのかもしれない。（敬称略）

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