最近、気になる野球映画の話題がいくつか出ている。野球映画といって印象深いのは、米球界にも影響を与えた話題作の映像化「マネーボール」(11年公開)や黒人初のメジャーリーガーであるジャッキー・ロビンソンを描いた「42~世界を変えた男~」(13年公開)などがあるが、今度は中南米出身選手として初めて野球殿堂入りを果たしたロベルト・クレメンテを描いた映画ができるという。「42」を制作した同じ会社が企画を進めており、配役などの詳細はまだ明らかになっていないが、クレメンテと同じプエルトリコ出身で昨季新人王に輝いた新進気鋭のスター内野手カルロス・コレアが出演することに決まった。コレアがどのような役で出演するかは、まだ本人にも分からないそうだが、現役のスター選手が映画の中で重要なパートを担うかもしれないというのは、珍しい試みだ。

 もう1つ気になるのはインディーズのドキュメンタリー映画で、メジャーのスカウトたちを描いた「スカウティング・フォー・ザ・ダイヤモンド…野球界の陰のヒーローたち」という作品である。あの「マネーボール」ではスカウトを風刺的に描いているが、この映画は裏方であるスカウトの仕事がどれだけ野球というゲームに影響を与えているかを描くもので、通算3010安打を記録し05年に殿堂入りした名打者ウエイド・ボッグス氏がプロデューサーの1人として制作に参加している。最近はセイバーメトリクスの発達によってスカウトの仕事の比重が減り、長年勤めてきた優秀なベテランスカウトでも失業するケースが増えているという。大リーグ機構が運営しているMLBスカウト・ビューローという専門機関は、かつては58人のスカウトを雇っていたが、今は人員削減で17人にまで減らされている。

 そんな中、映画を通してスカウトの仕事をあらためて見直そうという志を持つ関係者が多数、制作に携わった。映画は長期間かけて撮影され、すでに半分以上は撮り終えているそうだが、それでも制作にはまだ今年いっぱいくらいまでかかりそうだという。インディーズ映画なので資金がなく、寄付を広く求めながら進めているという状況だが、ぜひ完成にこぎつけてほしいものだ。

【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)