今季のポストシーズンを見ていて、かつてのポストシーズン・ヒーローだったカート・シリング氏を思い出した。ドジャースのエース左腕クレイトン・カーショーのフル回転ぶりが話題になったが、01年のシリング氏はさらにすごかった。ダイヤモンドバックスでランディ・ジョンソンとエース2枚看板だったが、シリング氏はヤンキースとのワールドシリーズ第1戦で勝利投手となった後、2登板連続で中3日という短い間隔で第4、7戦にも先発しチームを世界一に導いた。ジョンソンも中5日で第2、6戦に先発、連投で第7戦にリリーフ登板して2人が同時MVPに輝いており、絶対的エースを2人抱えればワールドシリーズを制覇できるという実例を示したという点で、当時の米球界に衝撃を与えた。

 今年のア・リーグ優勝決定シリーズ第3戦でインディアンスのトレバー・バウアー投手が登板中に右手小指から大量の流血をして話題になったが、ポストシーズンの流血で思い出されるのもシリング氏だ。レッドソックス時代の04年にヤンキースとのリーグ優勝決定シリーズ第6戦で負傷した足首から出血し、ソックスを血で染めながら力投した試合は、今も語り継がれている。シリング氏ほどタフなエースは、メジャーでは稀だろう。ワールドシリーズに中3日で3試合登板した投手は、01年のシリング氏以降、1人もいない。

 そんなかつての大エースが、引退後は野球以外の話題で世間を騒がせている。数年前に設立したゲーム会社の倒産で全財産を失い、ガンを患って闘病。ガン克服後はESPNの解説者として仕事も順調にいっていたが、数々の失言やマイノリティーに対する差別的発言などで解説の仕事をクビに。その後も差別的発言や超保守的発言をやめず、政治的活動に傾倒するなどして周囲を困惑させている。

 現役時代のシリング氏にインタビューをしたことがある。私に対しても丁寧に話をしてくれ、差別的な人にはまったく感じなかった。当時、自分は軍事オタクだと明かしてくれ、国のために危険な業務に当たる軍人や警官が好きだと話していた。当時から保守的な人ではあったのかもしれないが、ここまで極端な人ではなかった。かつての米球界のヒーローはどこへ向かっていくのか、複雑な思いでいるファンも多いだろう。

【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)